本研究は大きくシクリッドと哺乳類全般の適応進化の分子基盤について研究を進めた。 シクリッド: 雑種F2系統を作製した親種Haplochromis chilotesとH. sauvageiを含む計7種に関して、方法開発班の援助を受けIllumina Hiseq2000を用いた全ゲノム配列データの収集をおこない、研究者内においてのみ公開されているPundamilia nyerereiの概要配列へmappingした。現在は全SNPや、それらの中で祖先多型に由来するSNPを抽出している段階であるが、我々の予想通り、シクリッドゲノムには多数の祖先多型由来SNPが存在することが明らかになった。また、遺伝子地図作成と、それに基づくQTL解析の結果、2か所検出された性決定候補領域のうちの1つは、我々がこれまで注目してきたフェロモン受容体(V1R)遺伝子の近傍(約3cM付近)に位置すると推定された。この連鎖群にはLWSなど適応や種分化に関与する遺伝子が集中して存在しているため、適応をもたらした遺伝子配列レベルでの大規模な多様化が、性染色体の誕生に伴う組換えの制御に起因した可能性を示唆した。哺乳類: これまでに5遺伝子座のAmnSINE1由来のエンハンサーを発見し、今年度は特にその中の1つ(AS071遺伝子座)が複数の機能エレメントから成る多機能エンハンサーであることを報告した。一方、哺乳類の大脳新皮質特異的なエンハンサー(AS021)に結合する転写因子を発見し、またエンハンサー機能の成立過程を詳細に明らかにした。また哺乳類の二次口蓋形成に関与するAS3_9エンハンサーに関しても結合因子の同定、およびノックアウトマウスの解析を行った。このように、哺乳類の様々な形態形成に関与するSINE由来エンハンサーについて詳細な分子機能を明らかにした。
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