研究領域 | 複合適応形質進化の遺伝子基盤解明 |
研究課題/領域番号 |
23128509
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
古澤 力 大阪大学, 大学院・情報科学研究科, 准教授 (00372631)
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キーワード | 進化 / ゲノム / 複合適応形質 / マイクロアレイ発現解析 / 微生物 |
研究概要 |
生物システムの進化ダイナミクスは、システムの安定性に起因する拘束条件や、時間的に変動する環境条件に依存して、適応度地形上の表現型変化は複雑な軌跡を持ち、その軌跡が持つ性質を解析することは、その進化過程の理解において重要な意味を持つ。そこで本研究では、コントロールできる環境下での大腸菌の人工進化実験を用いて、その進化ダイナミクスにおける表現型変化をマイクロアレイ実験による発現解析によって定量する。 23年度は、抗生物質を添加した環境下での進化実験を行った。大腸菌MDS42株を親株として、大腸菌に作用があるとされる33種類の抗生物質を添加した環境での進化実験をそれぞれの薬剤について独立4系列で行い、31種類の薬剤について親株より有意に耐性能が向上した耐性株の取得に成功した。これらの株のうち11種類の薬剤について耐性となった44株について、次世代シーケンサFLXを用いたゲノム変異解析を行い、それぞれ5~20カ所程度の変異の同定に成功した。今後、これらの変異解析のデータとマイクロアレイを用いた発現解析のデータの対応を解析することにより、薬剤添加環境での進化ダイナミクスの理解を目指す。 加えて、上述した薬剤耐性大腸菌株について、耐性能のトレードオフの存在を解析した。ここでは、ある薬剤Aの耐性株が、別の薬剤Bへの耐性能をどのように変化させるかを様々な組み合わせで解析したところ、薬剤Aの耐性株が薬剤Bについては感受性になるといったトレードオフの関係を持つ薬剤が複数確認された。今後このようなトレードオフの関係がどのようなメカニズムによって出現するかを解析するとともに、こうした組み合わせの薬剤を同時に添加、あるいは時間的に変動させて添加したときにどのような進化ダイナミクスが出現するかを解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多くの抗生物質について耐性能を持つ大腸菌株の取得に成功し、その一部についてはゲノムに固定された変異を高い精度で同定している。こうした結果は、今後の進化ダイナミクスの解析において基礎データとなる。また、トレードオフの関係にある薬剤の組み合わせを見いだしており、本研究提案の主テーマである変動する環境での進化実験に用いる環境条件の候補となっている。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、トレードオフの関係にある2つの抗生物質について、それを同時に添加する、あるいは時間的に切り替えて添加するといった環境下での進化実験を行う。その変化の軌跡を増殖プロファイルやマイクロアレイの発現解析の結果など表現型レベルで記述し、一方で次世代シーケンサを用いた変異解析の結果から遺伝子型レベルでの記述を行う。これらのデータ間の対応を解析することにより、例えば一時的に適応度が減少するといった複合適応形質的な性質が見いだされるかなど、「矛盾した入力」の下で微生物がどのような適応進化ダイナミクスを示すかの理解を目指す。
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