生物システムの進化ダイナミクスは、システムの安定性に起因する拘束条件や、時間的に変動する環境条件に依存して、適応度地形上の表現型変化は複雑な軌跡を持ち、その軌跡が持つ性質を解析することは、その進化過程の理解において重要な意味を持つ。そこで本研究では、コントロールできる環境下での大腸菌の人工進化実験を用いて、その進化ダイナミクスにおける表現型変化をマイクロアレイ実験による発現解析によって定量する。 24年度は、複数の抗生物質を添加した環境での進化実験を行った。大腸菌MDS42株を親株としたこれまでの進化実験の結果として、単独の薬剤を添加した植え継ぎ培養による耐性能の向上とそれをもたらす遺伝子発現量変化・ゲノム変異の解析を行ってきた。さらに、ある薬剤Aの耐性株が、別の薬剤Bへの耐性能をどのように変化させるかを様々な組み合わせで解析したところ、薬剤Aの耐性株が薬剤Bについては感受性になるといったトレードオフの関係を持つ薬剤が複数確認された。そこで、こうしたトレードオフの関係などにある2つの薬剤について、それを同時に添加する、あるいは時間的に変動させて添加する環境下での進化実験を行った。その結果、薬剤の組み合わせによっては(例えば、クロラムフェにコールとアミカシン)、同時添加によって耐性能の獲得速度の有意な低下が見られた。こうしたトレードオフの関係にある薬剤の同時添加での進化実験は、複合適応形質の獲得過程を実験的に構成したことに対応し、複合適応形質の遺伝子基盤解明のための基盤となると期待できる。
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