研究概要 |
キスゲ属のハマカンゾウとキスゲの花形質は、それぞれ特定の送粉者の活動時間・視覚・嗅覚に、開花時間・花色・花香が協調的に適応したと考えられる。ハマカンゾウは、昼咲き種で、昼行性のアゲハチョウ類に送粉され、赤色を帯びたオレンジ色、香りなしという特徴がある。一方、キスゲは、夜咲き種で、夜行性のスズメガ類に送粉され、薄い黄色、強く甘い香りという特徴である。これまで、野外実験から、花色について送粉者の選好性が実証された。また、ハマカンゾウの花弁には、アントシアニン色素のdelphinidin 3-O-rutinosideが含まれ、キスゲの花弁には、アントシアニン色素は無いことが明らかになっていた。さらに、アントシアニン色素の有無について、1つの主要な遺伝子で支配されることを明らかにしていた。そこで、赤い花色色素であるアントシアニン色素の生合成経路の酵素遺伝子について、ハマカンゾウとキスゲのつぼみについて、発現量を比較した。 キスゲでは、F3’h (又は F3'5'h ), Dfr, Ans, 3gt, Rtの遺伝子について発現量が少ないことが明らかになった。さらに、花形質が分離しアントシアニン量が様々なF2雑種個体において、発現量の比較を行った。その結果、F3’h (又は F3'5'h ), Dfr, 3gtの遺伝子はアントシアニン量と相間があった。また、発現量について、遺伝子間の総当たりの相間を解析すると、F3’h (又は F3'5'h ), Dfr, 3gtの遺伝子の相間が高く、これらの発現が転写因子によって制御されていることが示唆された。
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