研究領域 | 複合適応形質進化の遺伝子基盤解明 |
研究課題/領域番号 |
23128512
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
黄川田 隆洋 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫機能研究開発ユニット, 主任研究員 (60414900)
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キーワード | 乾燥耐性 / ドラフトゲノム / 無代謝休眠 / 比較ゲノム / 網羅的解析 / ゲノムデータベース / ハエ目昆虫 / 適応進化 |
研究概要 |
手始めに、フローサイトメトリー測定によりネムリユスリカのゲノムサイズは96±7Mbであることがわかった。これは、昆虫の中で最も小さいゲノムの一つである。ネムリユスリカと同属の近縁種であるヤモンユスリカ(Polypedilum nubifer)は乾燥耐性を持たない。ヤモンユスリカのゲノムサイズも95±8Mbだったので、ネムリユスリカのゲノムからアンヒドロビオシスの特徴を同定するために比較ゲノムの最適な対象である。平成23年度は主にネムリユスリカのゲノム解読とそのデータの解析を行った。 得られた配列をアセンブリしたところ、推定されるゲノムのGC含量は28%であり、ネムリユスリカがAT-richなゲノムを持っていることが確認された。次に、サンガー法によるESTと今回新たに取得したトランスクリプトームデータを組み合わせて遺伝子領域を推定した結果、約12,000の遺伝子が予測された。予測遺伝子を同じハエ目昆虫(ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)の遺伝子セットと比較した結果、3種ともホモロジーをもたない遺伝子が半数近くあり、ネムリユスリカ特異的と思われる遺伝子を数多く含むことを示唆するデータが得られている。コドン使用テーブルの解析から、同義コドンの多くの場合、第3塩基がA/Tが選択されているという特徴も明らかとなった。一方、ネムリユスリカゲノム中の反復配列は解析の結果、約900以上見つかり、これらがゲノムに占める割合は約8%と推定された。この値はネッタイシマカの47%、ガンビエハマダラカの16%と比較して低い値であったが、ゲノムサイズと繰り返し配列の含量には相関が認められることから、妥当な結果であると思われる。既知の散在型繰り返し配列データベースと配列比較を行った結果、ネムリユスリカゲノムで見つかった反復配列の大部分が相同性を持たず、特にコピー数の多いものについてはその傾向が高くなっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シーケンサーを用いて現時点までに解析した塩基配列の総カバー率は、フローサイトメーターにより同定したネムリユスリカゲノムサイズ(96±7Mb)の289倍に達している。現在アッセンブル作業を進行中であり、25年度までにドラフトシーケンスを完了可能であろうと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
アッセンブルの結果、得られたコンティグのN50が4.4kb程度に留まっている。これは、AT-richなゲノム構造に起因した配列の冗長度の高さが原因となっている可能性がある。今後は、より長いコンティグやスキャホールドを得るために、数kbの配列解析可能な第三世代の次世代シーケンサーであるPacificBio社のシーケンサーや、Fosmidのエンドシーケンスデータを加えていく。
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