原生生物の繊毛虫類は、同一の細胞質に機能の異なる2種類の細胞核(大核と小核)を持つ2核性という形質を備えているが、進化過程のいつ、どのようにして2核性が獲得されたのかは明らかになっていない。2核性の獲得段階では、核機能を制御するための分子基盤である核―細胞質間輸送を担う輸送運搬体と、輸送される基質および輸送通路の核膜孔複合体が、それぞれの結合親和性を維持しながら複合的に適応進化する必要がある。本研究は、2種類の核の核膜孔複合体の違いを作り出している核膜孔タンパク質(ヌクレオポリン)、その違いに依存して運び分けをおこなう輸送運搬体、および運搬体が認識する輸送基質の核局在化シグナルを同定し、それぞれの因子間における相互作用の特異性、効率性を明らかにすることで、2核性獲得過程における核輸送システムの複合適応形質進化の分子機構の理解を目指した。 本年度は、免疫沈降法とマススペック解析により、繊毛虫テトラヒメナ(Tetrahymena thermophila)の大核と小核のヌクレオポリンのほぼ全てを同定した。動物、酵母、高等植物では、核膜孔複合体は、約30種類のヌクレオポリンから構成されることが知られているが、テトラヒメナにも主要なヌクレオポリンは全て存在し、核膜孔複合体の基本構造はよく保存されていた。多くは両核の核膜孔複合体に共通するヌクレオポリンであったが、それぞれの核に特異的なものも、既に明らかにしていたNup98以外に複数種類存在することが分かった。本年度の研究により、大核と小核の核膜孔複合体の構成成分の相違をほぼ完全に明らかにできた。この成果は、大核と小核の核膜孔複合体の機能が異なる理由を明らかにするために必要不可欠な情報を提供するものである。
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