公募研究
近年、microRNA(miRNA)は癌の形成に重要な役割を担っていること、特に癌幹細胞を維持する機能を有することが明らかとなってきた。申請者はこれまでに独自の二次構造を持つDecoy RNA(TuD RNAと名付けた)を細胞内で発現させ、標的とするmiRNAを特異的に高効率、長期間阻害する手法を開発・確立している。ヒトの乳がん患者の患部組織から乳がん幹細胞と乳がん非幹細胞を単離し、これらのmiRNA発現プロファイルについて詳細な比較研究の報告がある(Cell.138:592-603,2009)。本研究では、このTuDによる阻害法とmiRNAを強制発現させる手法の両者を用いて乳がん幹細胞のmiRNA発現プロファイルを再現することにより、人工癌幹細胞を作製することを目的とする。スクリーニングを行う細胞としてMCF-7細胞を選択し、ATCCより新たに入手した。そしてスクリーニングに必要なレンチウイルスベクターライブラリーの作製を行った。具体的には乳がん幹細胞での発現が高いとされるmiRNAについて、28種類のmiRNA発現レンチウイルスベクターを作製し、乳がん幹細胞での発現が低くかつMCF-7で発現しているmiRNAについて20種類のTuD RNAレンチウイルスベクターを作製した。これらのうち、miR-200cの発現が低いことが乳がん幹細胞の幹細胞性維持に特に重要であることが報告されているので、まずmiR-200c阻害レンチウイルスベクターをMCF-7細胞に導入して安定miR-200c阻害細胞を作製した。そしてルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイにより、この細胞においてmiR-200cが高度に阻害されていることを観察した。現在、その表現型の詳しい解析と共に、ライブラリーを用いた解析の予備実験を進めている。
2: おおむね順調に進展している
28種類のmiRNA発現レンチウイルスベクターおよび20種類のTuD RNAレンチウイルスベクターを作製し、本研究に必要なライブラリーを完成した。さらに特に重要と考えられるmiR-200cについて安定阻害細胞を作製した。スクリーニングを行うための準備が整った。
当初の予定通りにライブラリーをMCF-7細胞に投与し、CD44/CD24の発現解析を行う。これにより癌細胞の脱分化を誘導しうるmiRNAの同定を目指す。さらに併行して、安定miR-200c阻害乳がん細胞における幹細胞性についての解析をスフィアアッセイなどにより進める。
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Nucleic Acids Research
巻: (In Press) ページ: 1-13
10.1093/nar/gkr1317
Molecular Therapy
巻: 19 ページ: 1107-1115
10.1038/mt.2011.36
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/div-host-parasite/Versionl.html