本研究は、がん微小環境シグナルに支えられたがん幹細胞性獲得・維持メカニズムを理解することを目的とし、本年度は以下の2点を中心に研究を進めた。1)核小体蛋白Nucleosteminの発現を指標にした系(NS-GFP)によるがん細胞分化と微小環境の解析、2)mTOR シグナルとがん微小環境に関する解析。1)に関して、NS-GFP Tgマウスを用い、HoxA9/Meis1による急性骨髄性白血病(AML)モデル、あるいはMycによるB細胞性白血病(B-ALL)モデルを作成し白血病病態の解析を行った。その結果、AMLにおいて、GFPの輝度と移植後の白血病発症能との相関を認めた。B-ALLでは一部にGFPの発現の高い集団が存在していたが、白血病発症能との相関は認めなかった。しかし、興味深いことに、このGFP強発現白血病細胞集団は主に骨髄に存在し、一方で脾臓・末梢血では低頻度であるという特徴を示し、GFP強発現白血病細胞の生存は骨髄環境によって支持されていると推察された。今後、GFP強陽性白血病の特性を解明することによって、がん微小環境因子の理解が進む可能性が示唆された。2)に関しては、mTOR複合体1のコンディショナルノックアウトマウス由来AMLモデルを解析したところ、AML幹細胞は、骨髄微小環境下ではmTOR複合体1機能低下に抗して生存できることが判明した。このことから、骨髄環境は、白血病幹細胞の生存に必須の因子を供給していると考えられた。以上のように、本研究によって、がん治療法開発のため有意義な知見が得られた。
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