研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
23131506
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
臼井 雄彦 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (70533115)
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キーワード | DNA損傷チェックポイント / 組換え修復 / ゲノム安定性 / 組換え鋳型選択 / ヒストン修飾 |
研究概要 |
DNA二重鎖切断(DSB)を修復する相同組換え(HR)については、DNAレベルの素過程の理解が進んできたが、生体内のHRでは「染色体の選択」といった問題が加わる。体細胞では「姉妹染色体間HR」が「相同染色体間HR」より優位に起こる。姉妹染色体間HRはゲノムの変化を伴わない。しかし、親由来ゲノムの情報交換が起こる相同染色体間HRは、娘細胞で情報が欠落する染色体異常につながる。従ってこの「優位性」の理解はゲノム安定性を守る仕組みを知る上で重要である。 本研究の目的は姉妹染色体間HRの優位性に、DNA損傷チェックポイントによるクロマチン構造変換が関与する可能性を調べることである。そこで私はDNA損傷チェックポイントキナーゼRad53の新たな活性に着目した。Rad53は、体細胞と異なり相同染色体間HRが優位になる減数分裂期の計画的DSBには活性化されない。そこでRad53過剰発現の影響を調べた。結果、Rad53は相同染色体間HRを阻害し、姉妹染色体間HRを促進する活性を持つことが示唆された。しかしRad53はHR素過程を促進しなかったので、Rad53がクロマチン構造変換を介して姉妹染色体間HRを促進する可能性を考えた。 平成23年度は、減数分裂期におけるRad53活性化のサイレンシング機構を調べることによって、Rad53を減数分裂期の計画的DSBに対して活性化することができた。さらにサイレンシングには、計画的DSB部位の構成的なエピジェネティック制御が関与する可能性を得た。以上の結果の重要性は、1)翌年度の研究に重要な、過剰発現でなく生理的に意味のある活性型Rad53による組換え修復制御の解析系を得ることができたこと: 2)エピジェネティクスによってDSB形成以前に規定されたゲノム環境がDNA損傷チェックポイントの活性化制御に関与することが示唆されたことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度では、Rad53活性化のサイレンシングの仕組みの解明を大きく進めることができ、今後、新たな組換え修復制御を明らかにする観点からも重要な進展を得ることができた。しかし、サイレンシングの仕組みは研究計画当初あまり重きを置いていなかったので、新たな組換え検出系の構築に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得る事のできた系を用いて生理的に重要な活性型Rad53によるDSBの組換え修復への影響を調べて、姉妹染色体間HRを促進する可能性をさらに調べる。またプロテオミクスから示唆されたクロマチン構造変換に関与するRad53のターゲットの変異を導入して影響を調べる。Rad53による組換え修復制御の観点からもRad53活性化制御は重要であるので、活性化サイレンシングの仕組みの解明も追求する。また引き続き、最終的にこれら変異体の姉妹染色体間HRへの影響を直接的に検討する組換えアッセイ系の構築を試みる。
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