研究領域 | ゲノム複製・修復・転写のカップリングと普遍的なクロマチン構造変換機構 |
研究課題/領域番号 |
23131515
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古谷 寛治 京都大学, 放射線生物研究センター, 講師 (90455204)
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キーワード | DNA損傷 / DNA修復 / チェックポイント / クロマチン |
研究概要 |
細胞は分裂する事で増殖する。増殖する際には私達の遺伝情報を安定に娘細胞へと引き継ぐ必要が有り、もっとも重要なのは遺伝情報の正確な複製である。DNA複製は単に遺伝情報のコピーを作るだけではない。DNA複製の過程で誤りが生じるのは避けられず、それを修正する必要が有るため、DNA修復機構と複製機構が緊密な連携を取る必要が有る。その連携機構の司令官が、DNA損傷の検出にともない細胞分裂速度を遅くさせるための制御機構である、DNAチェックポイント機構である。DNAチェックポイント機構は細胞分裂の速度を制御するだけではない。問題の生じたDNA複製の中間産物を壊れない様に維持したり、壊れた複製中間体の再構築行える様場を整える働きを行っている事も示唆されている。すなわちDNAチェックポイント機構の制御の破綻は複製・修復両方に影響を与え、ヒト細胞においては"がん化"を引き起こす。 チェックポイント機構の活性化機序は詳しく解析されており、DNA損傷部位に結合する事で活性化が始まる。そのため活性制御にはDNA損傷部位への特異的な結合を制御する事が非常に重要である。また、私たちがこれまでに示してきた様に、チェックポイントタンパク質は、DNA損傷部位へと結合した後に素早く離れなければ続く修復作業の障害ともなる。 従ってDNA損傷部位への結合後の解離も厳密に制御される必要があるが、その分子詳細は分かっていない部分が多い。本研究ではDNAチェックポイントタンパク質Rad9の複合体(9-1-1複合体)に注目し、これまで申請者が分裂酵母をモデルとして解析した結果をヒト細胞へと発展させると共に、Rad9のDNA損傷部位への結合と解離に置いてクロマチン構造制御という新しい知見を取り入れた生化学的解析を行う事を目的とする。初年度ではヒト細胞の細胞サイズが大きな事を利用した細胞生物学的な解析の基盤を作り、ダイナミクス解析に着手した。また、クロマチン沈降法の起ち上げを行い、染色体末端へのRad9の結合制御が鍵となる事も見出した。さらに、精製タンパク質を用いた生化学的解析を目指し、主要タンパク質複合体を大腸菌、酵母、昆虫細胞の系から精製・単離する事に成功した。並行して原子間力顕微鏡に依る解析を行い、予想通り"尻尾の生えたボール"状の構造を取る事を示す事が出来た。現在は種々の変異タンパクによ"尻尾"構造の変化と制御機構との機能関連を検証中であり、次年度のクロマチン基質を用いた研究へ発展させる礎を築く事が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、生化学実験に使用するほぼ全てのタンパク質複合体の精製条件を確立した。また、計画では行えるか未定であった原子間力顕微鏡に依る観察を開始する事ができ、特異的な像を得る事が出来た。本研究のもう一つの主題はヒト細胞での細胞生物学的解析である。蛍光タンパク質解析などの基本ツールがそろい、ダイナミクス解析に着手しており、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終目標はクロマチン制御とDNAチェックポイントの機能的関連を追求する事である。ヒト培養細胞を用いた細胞生物学的解析は基盤が出来上がった。とりわけダイナミクス解析は遺伝学的アプローチも可能であり、二年度目はクロマチン制御機構の影響をノックダウン等の手法を組み合わせる事で解析を予定通り進めたい。併せてリン酸化修飾によるRad9タンパク質の機能制御に関しても、申請者のこれまでの酵母モデル系の結果から予想された通りに進んでおり、このまま進める。生化学的手法に関しては再構成系の樹立に必要な因子の多くは精製可能となった。クロマチン基質を用いて行う事も検討するが先ずは非クロマチン基質DNAを用いた解析を行う。また、原子間力顕微鏡を用いた解析が思いのほか進んだため、申請者が蓄積して来た変異体タンパク質を用いた構造解析も重点的に進めてみたい。
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