公募研究
胎盤アロマターゼ欠損症患者の観察から、胎盤のアロマターゼは外界のアンドロゲンを処理して胎児を環境アンドロゲン(ノイズ)から守ることで、内因性アンドロゲンによる性分化を保証していると理解される。この「胎盤アロマターゼは外因性アンドロゲン消去システムである」との考えを有胎盤類全体に広げて適用して、「有胎盤類の♀胎児の外性器はアンドロゲンの影響を受けて男性化しているが、系統発生に伴い胎盤アロマターゼ活性が上昇してその影響は小さくなり、霊長類では泌尿生殖洞の形態に最も近い外性器を獲得した」との仮説を立てることができる。本年度の研究では、この仮説を検証することを目指し、(1)有胎盤類の胎盤アロマターゼ活性と外性器表現型の相関、(2)比較ゲノミクス解析によるアロマターゼ遺伝子の進化の解析を行った。(1)では、有胎盤類(ウシ、イルカ、ヒト、マウス)について新鮮な胎盤を採取保存し、現在キツネザル、アカゲザルなど霊長類胎盤の入手を待っている。これまでに、胎盤アロマターゼ活性の測定法について、従来の^3H基質を用いた方法と^<14>Cを用いた新方法とを比較検討した結果、後者がinter assayに優れ、種間の比較に優れることが判明した。(2)について、アロマターゼ遺伝子の胎盤特異的プロモーターについての比較ゲノム解析を行った。その結果、このプロモーターは真猿類と新世界ザルとが分離した4000万年前に内因性レトロウィルス(MER21)のLTRが挿入されたことによると推定された。このウィルスは胎盤の合法体細胞の形成に重要な役割を果たすsyncytin2のコード領域との配列類似性が高く、胎盤特異的アロマターゼ発現は胎盤の形成と深く関わっていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
胎盤のアロマターゼの系統間比較のために代表的な種7種の採取を計画していた。このうちクジラやアザラシについては、採取が困難であったがイルカで代替させることで解析が可能となった。さらに、霊長類胎盤についても次年度繁殖期における採取にめどをつけることができた。比較ゲノム解析は、ゲノムデーターベースの公開されていない種があり、予定よりやや遅れている。
胎盤組織の採取が終わり次第、アロマターゼ活性の測定を実施し、種間での比較可能なデーターを得る予定である。クジラについては、イルカで代用する。また、種間の比較を霊長類でも行うことで、副腎の系統発生との関連からも解析を進める。比較ゲノムに必要なゲノムデーターのうち、公開データーのないものについて、自力でシークエンスすることも視野において検討する。
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