研究領域 | 性差構築の分子基盤 |
研究課題/領域番号 |
23132504
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 克晃 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 准教授 (30260326)
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キーワード | SRY / SOX9 / 卵巣 / 性転換 / マウス |
研究概要 |
申請者らは、マウス胎齢13.0日(E13.0)のXX卵巣を父性環境(雄ヌードマウスの腎被膜下への移植)下で発生させた場合、移植後10日目以降から、鳥類、魚類に類似した順で精巣化因子の発現が開始し、自然発症的なXX精巣化が進行することを見出した(父性環境下=>AMH/精巣形成=>DMRT1=>SOX9)。本研究課題は、父性環境下での自然発症的なXX精巣化の分子基盤の全貌を明らかにすることを計画した。本年度は、まず、初めに、SRYによるXY精巣化と父性環境下でのXX精巣化の両方の過程におけるGDNF(精原幹細胞ニッチ因子)発現の開始時期を検討した。両精巣化の過程において、SOX9の発現開始直後からSOX9陽性細胞においてのみGDNF発現の開始が認められた。そのため、SOX9の直下でのGDNF発現の活性化は、精巣化のコア・カスケードの第一候補として考えられた。さらに、Wnt4-null胎子卵巣においてもGDNF発現量が上昇する事から、このSOX9=>GDNFのカスケードにWNT4シグナルが抑制的に作用していることも示唆された。次に、父性環境下でのXX精巣化(自然発症的なXX精巣化)における既存の卵巣化遺伝子群(FOXL2,DAX1等)の発現変化をリアルタイムRT-PCR法により解析した結果(移植前のE13.0卵巣、移植後4,7,10日後),非常に興味深い事に、FOXL2以外の幾つかの卵巣化遺伝子の発現が未分化期のレベルまで有意に低下している事が明らかとなった。本結果は、移植後10日目までに、卵巣化遺伝子群が低下し、性的に未分化な状態に逆戻りしていることが示唆された。本結果は、哺乳類独自の性分化システム(SRY=>SOX9の遺伝的スイッチの獲得と性ステロイド感受性の消失)の生物学的意義の解明の鍵となると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
父性環境下での自然発症的なXX精巣化の分子基盤が、一部の卵巣化遺伝子群の低下により性的な未分化性を再獲得することが判明した。これは、我々の"脊椎動物間で保存された性分化のコアカスケード"が存在するという仮説を裏図ける結果であり,今後のマイクロアレイ解析等により卵巣化から未分化性の再獲得の分子基盤解明できる可能性が高まった。また、既に、マイクロアレイ解析用のサンプルの準備も整っており、次年度もスムーズな研究の実施が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、計画どおり、Busulfan処理により生殖細胞を除去したE13.0胎子の卵巣と腎臓被膜下に移植した卵巣片の遺伝子発現の動態を、経時的(移植前のE13.0マウス卵巣、移植後4,7,10日後)にマイクロアレイにより網羅的に解析する。候補遺伝子の中で発現量に有意な2倍以上の変化が認められた遺伝子に対し、リアルタイムRT-PCR法により発現量の差異を網羅的に定量化し、卵巣から未分化性に戻る遺伝子のコアカスケードを同定する。また、精巣化のコア・カスケードの第一候補として見出されたSOX9=>GDNFカスケードに関しては、マウスGdnf promoter領域のcis配列の機能解析を試みる。
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