循環器系難治疾患の病態発現における性差の分子機構を解明することを目的とした。重症心不全を来し、現在のところ心臓移植しか根治療法がない拡張型心筋症は男性患者が多い(男女比2.6)ことおよび男性の方が重症であることが知られている。拡張型心筋症の20-30%は常染色体優性遺伝性疾患であるが、遺伝性であってもその病態には性差がある。拡張型心筋症の多発家系において、男性患者は30代~40代で発症し、生存予後が不良であるのに対し、女性患者は50代~60代で発症する明らかな性差を認めたが、この家系の病因変異としてラミンA/C遺伝子(LMNA)のR225X変異を特定した。一方、LMNA-H222P変異をノックインしたラミン変異マウスでは雄が早く発症し、雌よりも生存予後が不良であることを報告している。ラット心筋細胞にR225XもしくはH222P変異を持つLMNAを導入したところ、テストステロンの非存在下でもアンドロゲンレセプター(AR)が核内に集積することを見出した。また、この際に、FHL2およびSRFの核内集積も亢進していた。さらに、R225X変異を有する拡張型心筋症患者およびラミン変異マウスの心筋組織においても、AR、FHL2およびSRFの核内集積の亢進が確認された。ついで、ラミン変異マウスを用いて、性ホルモンによる拡張型心筋症の病態への影響を検討した。雄マウスは去勢やAR阻害剤よび投与によって病態が軽減するのに対し、雌マウスでは男性ホルモン投与で病態が悪化した。また、病態の変化は心筋の病理所見およびリモデリング関連遺伝子の発現変化によって確認された。
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