免疫プロテアソームのプロテアーゼ活性を有するサブユニットの一つをコードするPSMB8遺伝子は、多くの顎口類において切断特異性を決定すると考えられる31番目の残基がアラニンのA型と、フェニルアラニンのF型の二種類のアレルが知られている。ところがこれまでに知られている真獣類のPSMB8は全てA型であり、当研究では有袋類、単孔類を調べることにより、哺乳類の進化過程のどの段階でF型の消失が生じたかを明らかにすることを目標にした。昨年は有袋類のワラビー、オポッサムおよび単孔類のカモノハシを解析し、A型しか存在しないと言う結果を得た。今年度は有袋類のタスマニアデビル、ウォンバット、コアラ、クァッカワラビー、セスジキノボリカンガルー、リングテイル、ハリモグラを解析した。オーストラリアの研究者から提供された、各種1から数個体の血球よりDNAを抽出し、PSMB8の様々なエクソン上に設計したuniversal primerを用いてPCRを行い、direct sequencingにより31番目のアミノ酸を推定することによりタイピングした。PCRでバンドが検出できなかったハリモグラを除く全ての種でPSMB8遺伝子の配列を得ることができたが、全てA型であった。半数以上の個体でイントロンに多型を検出することができ、両方のアリルともにA型であることが確認できた。以上より、F型の喪失は哺乳類の共通祖先で生じたと結論した。また、有袋類、単孔類のいくつかの種において、PSMB8とクラスI遺伝子の緊密な連鎖がたもたれていることから、真獣類に見られる両者の連鎖の喪失は、PSMB8遺伝子の二型の喪失にはるかに遅れて生じたことが明らかになった。
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