研究領域 | システム的統合理解に基づくがんの先端的診断、治療、予防法の開発 |
研究課題/領域番号 |
23134501
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武笠 晃丈 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (90463869)
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キーワード | 神経膠腫 / 多様性 / 悪性化 / 脳腫瘍幹細胞 / メチル化 |
研究概要 |
我々が保有する悪性神経膠腫の凍結試料の多くにおいて、神経膠腫における既知の遺伝子異常の有無に関する解析を継続的に行い、なかでも特に近年発見されたIDH遺伝子変異及びこれと関連したTP53遺伝子変異や染色体1p19qLOH、MGMTプロモーターメチル化についての解析を進め、それぞれの異常の頻度や相互関連を明らかにすることで、本システムがん研究課題推進のための基盤データを取得した。 さらに、ヒト臨床腫瘍検体の時間的あるいは空間的な変化や多様性を示すペア材料を利用して、主にゲノム網羅的なDNAメチル化解析を既存のマイクロアレイ法(イルミナInfinium 450Kアレイ使用)を用いて行った。これにより神経膠腫の大多数において大腸癌でみられるもCIMPといわれる状態と同様のゲノムワイドなCpG islandのメチル化が生じていることが検証された。またこのゲノムワイドなメチル化とIDH遺伝子変異が顕著に相関していることが確認された。 また、神経膠腫の時間的あるいは空間的な悪性化に伴う、網羅的メチル化データの比較解析により、腫瘍の悪性化に伴うメチル化プロファイルの変化を同定した。これにより、腫瘍の悪性化に伴いメチル化のプロファイルがある一定の様式にて変化していることが確認され、さらにこれは、より高次のエピジェネティックな制御機構の変化により引き起こされていることが予測されるデータを得た。 鍵となる悪性転化の検体に関しては、SNPアレイによるゲノム変異解析を施行した。これにより、悪性転化前後にて染色体の欠失や増幅の様式はかなり一致していたが、より悪性転化した検体では、新たなゲノム異常を獲得していることが多いことが確認され、今後、これら異常に伴う特定遺伝子の発現変化の同定により、悪性化機序の解明につながることが期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一段階として、平成23年度の達成目標は、時間的・空間的多様性を示す悪性神経膠腫の臨床検体のオミクスデータの取得を、ます行うことであった。オミクスデータに関しては、基本としてゲノム網羅的なDNAメチル化解析を既存のマイクロアレイ法を用いて行い、鍵となる検体に関しては、メチル化データを補完するトランスクリプトームデータをマイクロアレイにて取得する。この他、必要なものに関してはSNPアレイによるゲノム変異解析、マイクロRNA解析、プロテオミクス解析を施行して統合的なデータを得ることを予定していたが、およそ100検体の網羅的なメチル化データや鍵となる検体のSNPアレイの解析、ゲノム変異解析を行うことができた。予定の全てを行った訳ではないが、鍵となるデータがそろいつつある。また、網羅的メチル化データの比較解析により、腫瘍の悪性化に伴うメチル化プロファイルの変化を同定したため、先行して個別遺伝子の解析も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究の第二段階として、これまでに取得したin-houseデータの統合的解析を、TCGAデータなどpublicな巨大なデータベースや自らのfunctional dataなどと統合解析することにて、腫瘍原性・悪性転化・治療耐性に関わる key moleculeやpathwayを同定することを目標としている。また、腫瘍原性・悪性転化・治療耐性に関わる個別の遺伝子(分子)に焦点をあてることで、これらと治療反応性や予後との関連を臨床データを利用して調査していきたい。また、治療反応性が良好で予後が良い腫瘍の特徴や遺伝子発現、エピゲノム修飾の特徴が明らかになった場合、これらの状態に応じた個別化治療の開発を開始したいと考える。
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