公募研究
本研究では、光学計測、漆工芸、感性工学、視覚心理物理を専門とする分野横断的研究グループにより、黒漆表面の物理特性と漆黒の質感の関係解明を目的とする。平成23年度は、連携研究者である松島さくら子の研究室で製作した下塗、胴刷り、漆磨きの各工程での漆手板を提示刺激とした評価実験を行った。現有の黒みマッチングボックスを用い、様々な輝度コントラストで呈示されるマッチングボックス内の円形参照刺激と手板刺激の黒みを比較し、どちらがより黒いかを被験者に応答させる。これを繰り返して、知覚的黒みが等しくなるコントラストを種々の条件で決定した。被験者には、工学部学生と教育学部美術コースの学生を採用し、美術に対する興味等に関するアンケートを実施した。刺激呈示条件は、円形窓がある板をかぶせてマッチングボックスの参照刺激の見え方とほぼ同じ状況にした「窓有り」条件と、手板の存在感が認識できる「窓なし」条件で行った。現在結果を解析中である。また、同じ領域の京都工芸繊維大学の大谷芳夫グループから光沢度の異なる漆板群を借りて、連携研究者の芝浦工業大学大倉典子が黒漆板の評価語を絞り込み、感性評価実験を実施中である。学内共同研究施設現有の三次元形状計測装置および電子顕微鏡を用いて、既存漆手板刺激表面の表面粗さ測定と電子顕微鏡写真撮影を実施した。しかしこれはまだ試験的なものである。また、同じ領域の千葉大学の津村研究室の装置を用いて、宇大の手板刺激と京都工芸繊維大学の漆板の双方向反射率分布関数(BRDF)を測定した。また、評価実験に手板を設置し、被験者の観察位置からの輝度を測定した。窓有り条件では被験者群間の相違はないが、窓なし条件では美術コース学生の結果の個人差が大きくなる傾向が見られた。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り,1)漆産地別および工程別の漆手板の製作,2)それらの手板を用いた黒み評価実験の実施,3)表面粗さの試験的測定,4)漆手板の漆塗布部の電子顕微鏡写真撮影,5)感性評価実験の評価語絞り込み、6)感性評価実験、7)黒みマッチングボックスを用いた黒み評価実験、8)双方向分光反射率測定、9)分光反射率測定、などを実施することができたため.
今後の研究課題としては、1)漆を塗布したアクリル板を製作し、その分光透過率の測定、2)昨年の45°とは異なる入射光角度に設定した条件での双方向分光反射率測定、2)ワンポイント蒔絵をつけた手板を製作し、かわいい評価実験、3)黒み評価を行った手板刺激を用いた感性評価実験、を行う。感性評価実験および黒み評価実験の結果と、様々な物理特性の測定結果を比較検討し、どのような質感評価がどの物理特性と関係があるのかを解明する。
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http://www.ced.is.utsunomiya-u.ac.jp/~ishikawa/kenkyuhi.html