本研究では,ラットの聴皮質を対象にして,音の質感とそれに付随する情動が,どのような神経活動パターンとして表現されているかを調べた. まず,ラット聴皮質における,音刺激に対する定常的な神経活動に,音の周波数情報や情動情報が表現されているかを調べた.具体的には,定常的な神経活動の特徴量として,局所電場電位 (LFP) の位相同期 (phase locking value; PLV) から,機械学習により,刺激音の周波数情報の抽出を試みた.その結果,PLVから,刺激音の周波数情報の抽出は可能であった.さらに,抽出精度は古典的条件付けによって向上したことから,定常的な神経活動には,刺激音の周波数情報,ならびに,刺激音と連合した情動情報が表現されている可能性がある. 次に,ラットの聴皮質を対象にし,2つの純音から構成される和音の協和度が,定常的な神経活動のPLVにどのような影響を与えるかを調べた.具体的には,12 kHzの純音を低音,それよりも高い7つの純音を高音として組み合わせ,4つの協和音と3つの不協和音を作製した.麻酔下のナイーブラットに,それぞれの純音と和音を,30秒間ずつ提示して,紡錘波が生じていない時間帯のみのPLVを計算した.和音に対するPLVと,各和音の高音のみを提示した際のPLVとの差を調べた.その結果,すべての帯域において,協和音のPLVは,その和音を構成する高音のPLVよりも高くなったが,不協和音では,そのような違いは認められなかった.これらの結果から,和音の協和度は,聴皮質内の位相同期の強さに表現されていると考える.
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