研究概要 |
本研究では,質感情報の実体化プロセスまでを視野に入れた物体表面の質感編集手法の実現を目指しており,質感の主要素と考えられる反射特性を凹凸形状で操作することを目標とした.この目標の達成のために,平成23年度では,1.凹凸データの忠実な実体化のための高精細な切削加工と,2.質感編集のための凹凸データの作成手法の提案を行った. 1.質感データの実体化を達成するために,本研究ではNC切削機を用いて高精細な加工を試みた.実際に製品レベルで加工する場合,加工範囲の広さからエッチング法を用いるのが主であるが,化学反応を応用するため制御が難しく,高低差が大きな加工では精度を保つことは容易ではない.また,研究室レベルで扱える加工装置ではない.一方,機械的な加工であれば制御が比較的容易であるため,本研究ではNC切削機を用いた加工を試みた.微細な凹凸データをツールパスのNCコードに変換して金属板を加工し,そこにシリコンを充填して革シボを実体化した.また,切削工具は刃先が細いために破損しやすく,適切な切削深度と切削速度を模索する必要があった.試験を繰り返し,ほぼ破損なく切削できる深度と速度を特定した.実験として革シボの実測データを切削し,エッチングでは困難な高精細な凹凸形状を表現できた.2.所望の質感を有する凹凸データを作成するために,任意の凹凸形状を有する要素で構成されるテクスチャ生成手法を提案した.この手法では,要素同士が重ならないようにランダムに配置することで,不自然な要素の並びを避けることができた.また,重ならない領域を編集することで,要素の配置を操作できることを確認した.この手法を用いて,牛やオストリッチを模倣した革シボを生成し,CG画像上で所望の凹凸形状を生成できることを確認した.3次元形状を有する要素では,同様の配置後,要素同士の接触を考慮した位置調整によって自然な集合体を形成できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,実体化プロセスを優先的に研究した.実体化プロセスのために,高精細な加工によるデータから実物に忠実に凹凸形状を付加することができており,所望の凹凸形状の生成手法も合わせて提案している.そのため,今後,サンプル作成が容易になり,質感編集に関連する質感の知覚の調査が円滑に実施できると考える.当初計画していた研究の実施順番の違いだけであり,進捗は概ね順調といえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き,サンプルとなる表面の凹凸形状の持つ反射特性を保持し大域的に変化するようなバリエーションを持つ質感データの編集手法の研究を進める.また,質感の知覚の調査のために,ヘアライン加工を応用し,曲面の反射特性を編集する手法を開発する.これを開発するために,ヘアラインの制御のための線分の操作手法を開発する.つづいて,視認できない粒度のヘアラインを有した凹凸形状を生成し,CGと実物を用いて光の反射特性を観察する.両者に大きな相違が出ないヘアラインの粒度を特定し,実体化を視野に入れた質感情報の編集を可能にする.実際に実体化したものは,研究協力者(企業の研究者を予定)による主観評価を行い,手法の有効性を検証する.
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