研究領域 | 質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合的研究 |
研究課題/領域番号 |
23135515
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60283470)
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キーワード | 共感覚 / 質感認知 / fMRI / 脳波 / 個人差 |
研究概要 |
色字共感覚者の色認知の脳過程から主観的質感認知のメカニズムを理解するために、心理物理実験と機能的脳イメージング実験を行った。心理物理実験では、色字共感覚における色認知の非共感覚者におけるイメージや連想との差異と共通性を明らかにするために、実験1では、object reviewingと呼ばれるプライミング法の一種を用いて、共感覚における文字と色の連合が刺激の時空間情報を含むトークンレベルの現象か、より抽象的なタイプレベルの現象かを検討した。反応時間分布解析なども利用した詳細な解析から共感覚者ではタイプレベルの結合が優勢であるのに対し、非共感覚者が連想を用いるとトークンレベルの結合が用いられることが分かった。この成果は、Consciousness and Cognition誌に掲載された。機能的脳イメージング実験では、物理色の認知と共感覚色の認知における脳活動を共感覚者、非共感覚者で測定し、multi-voxel pattern analysis (MVPA)を用いて、視覚野や頭頂葉の下位領域における脳活動のパターンの類似性や差異を分析中である。現在、MPVAによる色に対する脳活動の推定技術を確立し、共感覚者に対してこの手法を適用する段階に入っている。これらの当初計画された研究と並行して、班会議での議論から新たに色以外の素材質感(毛皮、光沢など)を感じる共感覚者に対して質感の共感覚の心理特性を明らかにする研究を開始した。色と異なり、刺激空間が膨大で共感覚者の主観と対応した物理的な質感刺激を見出すことに困難を伴うが、まず、共感覚的質感の同定の作業を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画のうち、共感覚者の文字-色結合の性質に関する研究は、その成果を国際誌に英文論文として掲載できた。MRIを用いた共感覚色の神経基盤の研究は、少し予定より遅れ気味であるが、MVPAを用いた色に対応する脳活動パターン推定の技術のめどが立ち、今年度は、具体的に共感覚色に対応する脳活動の推定を目指す。また、当初計画していなかった素材質感の共感覚に関するプロジェクトは、共感覚の性質、及び質感認知の性質の理解にとって極めてユニークな貢献ができる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画については進めるが、素材質感の共感覚に関する研究を追加する。共感覚者の一部は、色だけでなく素材質感を報告するが、その時に主観的に感じている質感がいかなるものであるのかは不明な点が多い。例えば、素材と照明情報が合成されたある特定の見えが感じられているのか、照明とは独立した素材情報そのものが感じられているのかはわかっていない。こうした問題を明らかにすることにより、共感覚の仕組みに関する重要な知見を提供するだけではなく質感知覚、質感記憶の一般的特性に対しても重要な示唆を与えられると考える。
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