研究概要 |
ヒトやその他の霊長類のように、多種多様な食物を摂取する種にとって、食物を適切に選択する能力は生存に不可欠である。ヒトでは、食物のテクスチャの視覚的な特徴から、食品の時間的変化を「鮮度」として判断することが報告されている(Wada et al,2010)。また、食物の「鮮度」の判断には、画像に含まれる輝度ヒストグラムの情報(尖度、歪度、標準偏差)が関わっていることが示唆されている。このような「鮮度」の判断は、腐敗した食物を避け、最も効率よくカロリーを摂取する上で生存に重要だと考えられるが、ヒト以外の種がどのように食物のテクスチャを知覚しているかについては十分に調べられていない。そこで、本研究では、ヒトには「鮮度」の違いとして判断される範囲での時間的な変化をもつ食物のテクスチャの知覚について、ヒトに最も近縁な動物であるチンパンジーを対象に検討し、ヒトと比較した。 京都大学霊長類研究所のチンパンジー4個体(年齢範囲:11歳~35歳)を対象に、キャベツの画像11枚を用いて、弁別能力を検討した。キャベツはチンパンジーが日常、食べている品目の1つである。キャベツの表面が時間経過とともに劣化していく画像(購入後1時間後,2時間後,3時間後,5時間後,8時間後,11時間後,15時間後,19時間後,23時間後,27時間後,32時間後)のペアをモニタ上に提示し、「鮮度の高い」方の画像を正解とした弁別訓練をおこなった。その結果、6個体中4個体のチンパンジーが、視覚的特徴に基づき、時系列の異なるキャベツの画像ペアを弁別した。画像をグレースケールに変換しても成績は低下しなかったが、画像に含まれるピクセルの配置をランダムに配置すると成績が低下したことから、輝度や空間情報が手がかりとなっている可能性が示唆された。さらに、訓練で使用していない新しいキャベツやホウレンソウの判断においても、より新鮮な方を選ぶ傾向が見られたことから、これらに共通した視覚情報を利用して違いを判断していることが示された。
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