研究領域 | 質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合的研究 |
研究課題/領域番号 |
23135517
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 洋紀 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (10332727)
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キーワード | fMRI / 視覚 / 触覚 / 視覚皮質 / 風合い |
研究概要 |
本研究の目的である、実物体刺激を用いた質感知覚の多角的な脳イメージング計測を実現すべく、第一段階として、非磁性の特殊な超音波モーターと光ファイバー照明を組み合わせた、日中戸外に匹敵(~10,000lux)する高質感で実物体を呈示可能な「fMRI対応実物体刺激呈示装置」の開発を進めた。モーターの制御系やソフトウェアの改良、配線のシールド強化・最適化を実施した結果、SN比の低下をモーター駆動時のみに制限することが可能となった。それ以外では、モーターを導入しない通常スキャン時と同等のSN比を確保することに成功した。 第二段階として、実際に実物体表面刺激を呈示し、質感関連脳領野を同定するfMRI実験を3つ行った。1つ目に、印刷物を明るさの異なる照明環境下で呈示した時の脳活動を比較した。照明光が強く、印刷物の色がより鮮やか(高質感)に知覚される時に後頭腹側部前方に強い賦活が見られた。2つ目に、布刺激を用いて質感関連領野を同定するために、質感刺激(3種の異なる質感で黒色の布)・色刺激(同一素材で色のみ異なる3色の布)・基準刺激(同一素材で黒色の布)の3種類の布を観察している時の脳活動を測定した。質感の異なる布刺激を観察している時、紡錘状回付近で強い賦活が見られた。この賦活は異なる色の布を観察している時よりも強かった。3つ目に、質感の異なる4種類の布刺激を両手で触って弁別する時の脳活動についても測定を行ったところ、中心溝前後の領域と紡錘状回付近で強い賦活が見られた。これらの実験結果から、感覚モダリティの如何に関係なく、質感に関係する、情報処理において、後頭腹側部が深く関与している可能性が示唆された。 以上の成果の一部について、日本視覚学会2011年夏季大会や第13回日本ヒト脳機能マッピング学会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一段階である実物体刺激呈示装置の開発については、当初の計画通り進展した。これに続く、fMRIによる実物体表面の質感脳情報処理に関与する脳領域の同定実験については、共同研究先のMRスキャナーの更新が急遽行われることになり、十分なマシンタイムが確保できていないため、やや遅れが生じている。また、神経連絡構造と神経伝達物質濃度の測定についても、これらに必要な撮像シーケンスの導入に想定以上の時間を要しているため、準備が遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の遅延の最大要因は実験に必須なMRスキャナーの更新である。更新に伴う研究の遅延は3か月程度(2012年3~5月)を見越している。この程度の実験延期であれば、装置が新しくなり、撮像時間が短縮されることを考えると、fMRIによる実物体表面の質感脳情報処理に関与する脳領域の同定実験は全て遂行できると考えている。神経連絡構造と神経伝達物質濃度の測定については、これまでの準備状況を鑑みると、双方を計画通り遂行することは困難になるかもしれない。その場合は、どちらか一方に研究資源を集中することで確実に成果を上げたい。
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