質感知覚の脳過程を、機能的磁気共鳴画像化法(fMRI)と核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)を用いた多角的な脳イメージング実験によって調べた。 1. fMRI実験 前年度行った実物体を用いた3種の実験(視覚:印刷物とファブリック、触覚:ファブリック)の全てで腹側の高次視覚皮質の質感知覚への関与が示唆された。しかしながら、この領域がどの視覚野に相当するかは不明である。従来のレチノトピー測定技術ではこの高次領域の視覚野を決定するのは困難なため、新たな視覚刺激を用いた測定法を考案した。現在、その新手法を用いて、腹側質感知覚関連野の視覚野の同定作業を行なっている。 2. MRS実験 近年、核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)撮像技術の発展により、ヒト生体脳内で、主要な抑制性神経伝達物質であるGABA濃度の非侵襲的測定が可能となってきた。これによって、低次視覚野のGABA濃度と方位弁別閾値が相関する(1)など、感覚野のGABA濃度が知覚に影響することが明らかになってきた。本研究では、質感知覚の生化学的基盤解明への第一歩として、腹側の質感関連領野と後頭の低次視覚野のGABA濃度をMRSによって測定した。被験者は健常成人男性6名で、測定は閉眼安静時に行った。全被験者の全領域のスペクトルで、GABAに対応する3 ppm 付近に明確なピークが見られた。興味深いことに、後頭のGABAスペクトルは被験者間でよく一致していたのに対して、腹側では個人差が大きかった。この腹側のGABA濃度の個人差は、質感知覚の個人差と対応しているのかもしれない。
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