気に入った風景の場所に行けば、何時間でもそこに佇んでいられるし、気に入った音楽ならば何度聞いても飽きない。好きな絵画、好きな風景、好きな音楽は、私たちの情動系に働きかけ、心地よさ、快感、喜びなどのpositiveな感情を生み出す。しかし、同じ絵画や彫刻であっても、光の当て方や写真の撮り方により、物の表面の明るさ、色味、光沢、粗さなどを変化させると、同じ物であっても印象が変化し、好みも変化する。本研究では、物の質感を決定する視覚パラメータのうちどれが選好性に影響を与えるのかを行動学的に解明すると同時に、このような選好性に関わる脳部位として前頭葉眼窩部に注目し、選好性に影響する視覚パラメータと前頭葉眼窩部ニューロン活動の相関の有無を解明する。 実験に使用する視覚刺激としてFMD Databaseの中から素材や質感の異なる50枚を選択し、同時に呈示した2枚の刺激から1枚を選択する課題を用いて、各刺激の選好性の強さの違いを検討した。選好性の強さの違いは、各刺激の選択率の違いとして求めた。どの視覚パラメータにより選好性が影響されるのかを決定する目的で、Photoshopを用いて各刺激を加工し、同一刺激の色付き条件vsモノクロ条件での比較、細密画条件vs粗大画条件での比較、輪郭の明確さの異なる条件での比較を4頭のサルで実施した。その結果、刺激の選好性はサルにより異なるが、選好性に影響するパラメータとして空間周波数成分の強さがいずれのサルでも共通して観察された。50枚のオリジナル刺激を使った検討では、刺激に対する選好性は個体差の影響を大きく受けることが明らかになったが、同時に空間周波数成分が刺激選好性に影響を与えていることがいずれのサルでも観察された。これに対して、刺激の色味やその多様性、ならびに、光沢の有無は選好性にあまり影響しないことが明らかになった。
|