研究概要 |
平成23年度は立体物に対して質感制御を行うための投影系と撮像系の瞳位置がビームスプリッターにより光学的に一致させたプロジェクタカメラ系を試作した.また,Motoyoshiらの質感知覚に関する知見に基づき,質感を操作する画像処理アルゴリズムをプロジェクタカメラ系に実装した.この成果は今年6月に画像センシングシンポジウム2012にてデモンストレーション展示を行う予定である.また本年度開催される国際会議International Conference on Pattern Recognition 2012にも投稿している.さらに,本研究の基礎技術であるプロジェクタカメラ系の基礎理論について投稿していた論文が掲載された. 上記のとおり,順調に成果は上がっているが,質感制御を実現するにあたり画像処理アルゴリズムと制御対象の光学的特性に関する問題が明らかになった. 画像処理アルゴリズムに関する問題としては,Motoyoshiらの透明感に関する知見では,低周波成分の位相を反転させ,高周波成分として抽出されるスペキュラ成分を強調することで艶を持つ透明物体のような見かけにすることができることが示されている.スペキュラを分離する方法としては,ハイパスフィルタを用いる方法が考えられるが,スペキュラ成分の特性は対象に大きく依存するため分離は容易ではない,また,光学的な観点では,低周波成分の位相を反転させた画像を生成しても,環境光による明るさよりも暗くすることは不可能であり,コントラストの高い見かけの制御を実現することはできない.さらにスペキャラ成分が含まれるシーンにおいて,環境光によって生じているスペキュラはプロジェクタからの投影光量を調整しても除去することはできない上に,鏡面に対してはプロジェクタから投影された光が予期しない方向に反射するため明度を制御することができないという問題が明らかになった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では,平成23年度に1)見かけの制御を用いた質感の制御方法の検討と2)ハイダイナミックレンジ(HDR)環境を許容する見かけの制御方法の確立とシステムの試作を予定していたが,このうちHDR環境を許容する見かけの制御手法については未検討である(撮影については14bitの分解能を持つダイナミックレンジの高い計測とHDMIによる高精細な投影については実装済み).この理由は投影のダイナミックレンジよりも,実績の概要で述べた問題の方を優先して解決すべきであることが明らかになったためである.しかし,システムの試作や質感制御方法の検討などは終えており,平成24年度の研究を予定通り行うことが可能であるため概ね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は質感制御の心理実験への応用方法を見据えて,前年度に明らかになった問題を解決し,プロジェクタカメラ系に適した質感操作画像処理アルゴリズムの確立を行う.また,様々な物体に対して質感制御を試み,前述の光学特性に関する問題が発生しない心理実験に適した材質を模索するとともに,光学系の改良も試みる. 以上の試みにより問題が解決された後に,制御対象や制御パラメータの種類とその制御範囲を調査する,次に,被験者実験により制御性能の評価も行う.最後に,質感脳情報学の研究者への提供を目指して,安価な機器構成の模索と,研究成果をまとめたアプリケーション作成を試みる.
|