物体の質感知覚は,私たち人間を含む生物一般の生存に不可欠なプロセスであり,また工業製品の印象や価値に影響を与える重要な要素である.しかし,その脳内表現のメカニズムはこれまでほとんどわかっていない.質感研究の難しさは,質感が非常に高次元の情報であるため,どのような画像手がかりが質感を制御しているのかが捉えにくいことに起因する.また質感知覚は本質的にクロスモーダルな性質をもち,視覚のみならず触覚を含む複数の感覚要素の相互作用の結果もたらされるという複雑性を有する.これらの問題にアプローチするため,本年度は,1)画像の特徴量解析と質感情報との対応関係の定量化,および,2)感覚情報のクロスモーダルな脳内表現の解明,の2つの目標を目指した実験および解析を行った. 1)においては,画像の特徴量として近年広く研究されているSIFT特徴量を一般自然画像を用いて計算し,構成された特徴量ベクトルからその画像に共起する形容詞を有意に予測することに成功した.ただし,SIFT特徴量は物体カテゴリのよい記述特徴量となることも知られているため,この両者の要因を切り分けた検討をさらに進める必要がある. 2)においては,今年度は特に,質感知覚において重要な触覚情報の脳内表現の解明に注目した実験および解析を行った.触覚刺激は非磁性ピンアレイ型デバイスで生成した.アーチファクトを極力抑えるため受動触の状態をとり,2点弁別閾の最も小さい手指先端部を刺激箇所とした.触覚刺激は基本的な刺激特徴量(運動方向,エッジの方位など)で定義し,対応する脳活動を機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)で計測した.計測された脳活動を多変量解析の手法を用いて解析し,体性感覚野に加え,他の感覚野における脳活動の同定を行った.
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