無機リン酸イオン(以下リン)はエネルギー源(ATP)や細胞膜、骨格形成に必須のイオンである。リン代謝は、腸管吸収、骨吸収と骨形成、腎臓での排泄、再吸収により血中濃度の恒常性が維持されている。特に血中リン濃度上昇による恒常性の破綻は、慢性腎臓病患者の生命予後を悪化させ、骨、心血管疾患など様々な疾病を惹起することが知られている。そのため、リン恒常性維持機構の解明研究の重要性が認識されている。 申請者は、平成23年度より継続して、骨細胞死滅マウスを用いた全身性のリン代謝を多臓器にわたり多面的に捉えた総合的研究を進めてきた。平成24年度は前年の成果をさらに発展させ、骨細胞死滅マウスのリン代謝破綻機序を詳細に検討し、リン恒常性維持機構における骨細胞の重要性を明らかにすることを目的とした。 骨細胞死滅マウスでは腎臓からの尿中リン排泄が著しく上昇していた。また、腸管からのリン吸収阻害が見られた。さらに破骨細胞が顕著に活性化していた。一方、血中リン濃度は正常であるというリン代謝異常を示した。尿中リン排泄促進子機序を検討したところ、骨細胞の著しい死滅により低下した繊維芽細胞成長様因子23 (FGF23)の血中濃度に応答した、副甲状腺ホルモン(PTH)の顕著な上昇が関与することを明らかにした。さらに骨細胞死滅マウスでは食餌中に含まれるリン含量の応答に抵抗性を持つことを明らかにした。また腎臓において、抗老化因子であり、リン利尿調節因子でもあるKlothoの発現低下を見いだした。このことから、骨細胞はリン代謝だけではなく、寿命との関わりも示唆された。これらの研究成果より、骨細胞は腎臓、腸管、副甲状腺と臓器連関を持ち、リン排泄を制御し体内のリン保持機構に重要な役割を持つことが、明らかとなった。これらの研究は複数臓器の支配するリンホメオスターシスを多階層的に理解するための手がかりとなると考えられる。
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