本研究の目的は、不整脈発生モデルを用い生体・組織・細胞・分子レベルまでの包括的なデータを取得・解析することにより、不整脈の発生メカニズムを理解しシミュレーション可能な量的な因子の集合として記述することである。一般的手法に加え、組織イメージングで細胞間相互作用、伝導性を検討する。これまでに不整脈モデル動物(家族性拡張型心筋症(DCM)マウスモデル、Ca2+過負荷モデル)を用いて、不整脈発生の機序を検討してきた。 ヒト遺伝性DCMの突然死を良く再現するDCMモデルマウスの心臓の経時変化を調べた。DCMモデルマウスは、若齢(0~1か月)では心拡張は示すものの不整脈原性・心不全性の変化は少なく致死率も低かったが、2か月齢では不整脈頻度と致死率が上昇した。3か月になるとうっ血性心不全と著明な心拡張を呈する個体が高頻度に出現した。またDCM病態の進行はアンジオテンシン受容体拮抗薬により著しく抑制された。これらの事は、遺伝性DCMの進行には複数の病態ステップがあり、各ステップの致死の危険率が大きく異なること、病態の進行は薬剤や環境要因に大きく影響されることを示す。心電図、異所性自動能解析、電流解析、イオンチャネルの遺伝子および蛋白発現解析および構造解析の結果を総合すると、DCMではカリウムチャネルの発現抑制が段階的に進行することが不整脈や突然死を惹起し、また一部は細胞・組織構造変化と密接に関係することが示された。これらの統合的なデータはシミュレーションの材料として有用であると考えられる。 Ca2+過負荷モデルについては、Ca2+ waveのパターンと心筋細胞間の伝導性について調べた。Ca2+ waveは細胞間を伝わらないがCa2+イオン自体はギャップジャンクションを通って伝わると考えられた。RyR2を発現するモデル細胞系を構築しCa2+遊離パターンがどのように変化するか検討している。
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