研究領域 | 統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用 |
研究課題/領域番号 |
23136519
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
相庭 武司 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 医長 (40574348)
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キーワード | イオンチャネル / 心室細動 / ブルガダ症候群 / QT延長 / 電気生理 / 心不全 |
研究概要 |
分子・生物学、遺伝子解析の進歩により致死性不整脈疾患の一部は遺伝子異常が原因のイオンチャネル病であることが判明した。しかし遺伝子・蛋白や細胞レベルでの異常と表現型である心電図異常、不整脈発生の間には依然として未知の部分が多い。成人男性の突然死の原因として最近注目されているブルガダ症候群では、心室細動(VF)の発生には心外膜側における活動電位のばらつきが原因となって生じるphase 2 reentryがその機序として支持されている。本研究では動脈灌流右室心筋切片(Wedge)モデルを用いて同リエントリーが発生する際の興奮伝播を心外膜面のみならず心内膜及び心筋断面において記録した。その結果、同リエントリーは心外膜側の再分極のばらつきが最も大きな箇所から発生し、心外膜側で機能的なリエントリーを形成し心筋中層や心内膜側へは受動的に伝播していた。または機能的リエントリーの中心(コア)は一部中層まで伸びて3次元的に旋回している様子が観察された。また同じ遺伝性不整脈であるQT延長症候群3型(LQT3)では、心筋Na電流の定常電流(Late-INa)の増大によって貫壁性の活動電位のばらつきが増大し最終的にその破綻により不整脈が発生するのか否かを評価した。Late-INaの増大は遺伝性不整脈のみならず、カルシウム・カルモジュリンキナーゼを介した心臓肥大にも関係しており、心筋症や心不全における致死性不整脈の発生にも関係していると考えられる。心不全によるQT延長ではLate-INaの増大が貫壁性の活動電位のばらつきに重要な役割を担っており、不整脈基質となっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
犬の摘出心から作成した動脈灌流wedge標本については従来から行ってきた実験手法を踏襲し、恒温槽内でTyrode溶液にて灌流することにより、数時間にわたって安定して心筋の興奮・収縮を保持可能であり、不整脈の発生パターンを詳細に解析可能である。一方で、動物実験モデルはあくまでも様々なイオンチャネルを薬理学的に修飾することによって作成した、いわゆる疑似遺伝性不整脈モデルであり、本当の遺伝子異常を忠実に再現したモデルではない。そのためにはin-vitroレベルではウイルスを用いた強発現モデルあるいは遺伝子改変マウスを作成する必要があった。 更に平成24年7月にQT延長家系のゲノム解析から新たな遺伝子異常が発見され平成24年9月までに不整脈発生実験モデルと記録、解析装置を整備・確立し遺伝性不整脈のチャネル異常に基づいた不整脈発生データを記録する予定であったが、新たな遺伝子異常を加味した実験モデルに変更する必要が生じたため研究計画に遅延が生じた。 一方でCaMKIIを介した心不全を対象としたin vitroの実験モデルにおいては、心筋細胞シートに伸展刺激を与えながら、電気刺激(ペーシング)と同期ならびに非同期的に電気-機械刺激を調節する予定であったが、プログラムの問題と予定していた刺激発生装置が使用出来ず、やむを得ず同実験を単離した心筋細胞を使用しCaMKII阻害薬とNa電流との関係をみた急性実験を行うに留まった。また酸化ストレス(ROS)を測定する方法にも問題があり、実験方法を再考中である。
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今後の研究の推進方策 |
最近の研究成果から遺伝性不整脈の原因遺伝子はイオンチャネル異常に基づくもの以外にもカルシウム調節機構やイオンチャネル以外の原因が関係していることが判明してきた。このような知見を踏まえて実際の不整脈との関係やその危険性を予見することは、簡単ではない。遺伝子改変マウスの作成なども一つの方法であるが、今後は患者由来のiPS細胞を用いた実験モデルの開発と、これまでの実験データを使った計算モデルの開発を進めていきたいと考える。
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