滋賀県栗東市の伝統的地域社会と甲賀市の1970年代に造成されたニュータウンでの調査を継続し、その結果を分析し、発表した。 第一に、伝統的地域社会においては、現在も続く民俗行事が、人びとの地域社会への社会化を促し保持してきた側面があった。しかし、子どもと地域社会をつなぐ機能や、大人たちが交流を深める機能、あるいは地域の人びとが共通に想起可能な集合的記憶を創出する機能は相当程度に失われた。それらの民俗行事は個別には失われるとしても、価値観の異なる者同士が同じ地域内で共生するための、さまざまな工夫が埋め込まれたレパートリーであると評価した。幼少期からそれらのレパートリーを体験してきた高齢者には、共生社会のためのレパートリーが身体化しており、それを言語化・再評価することに努めた。 第二に、ニュータウンにおいては、造成初期の流入者は既に高齢になり、退職しており、地域での様々な活動に参加していた。彼らのライフヒストリーからは、会社員や主婦などの多様な経験が、実際には地域での活動に生かされているにもかかわらず、主観的には断絶した経験になっていることがわかった。たとえば、民俗のようなレパートリーが活用できないため、組織作りにおいては会社での組合運動の経験が援用されることもあった。自治会や自治振興会(まちづくり協議会)が、組織原理・構成も含めて見直しを経て、高齢者以外が役員に就いたり改革を推進したりしている様子が確認された。 高齢者の知識や経験は、社会の変化が大幅に変わる時代においては活用しづらいとの見解もある中、本研究においては、高齢者の知識や経験が今の時代においてもなお、共生のレパートリーから重要なエッセンスを抽出したり、レパートリーを創出したりするのに有用であることを示唆している。
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