CO2還元反応において、プロセス全体の収支として真にエネルギー固定に働き、かつ地球規模スケールに適用可能な反応にするためには、光のみをエネルギー源として用い、希少な遷移金属を使用しない触媒系が望まれる。近年応募者らは、可視光を用いてCO2をギ酸へと変換する非遷移金属触媒系を開発した。本反応では高還元力を有する光増感剤PSと水素原子移動触媒(BIH BI BI+)を併用して良好な触媒回転数が得られたが、PS・+の電子受容能が低いためCO2・-とPS・+とのラジカルイオン対の形成により電荷再結合が速くなってしまい、P・+による二段階目の光子吸収が間に合わないことが分かった。そこで、「アニオン電荷を有する光増感剤を用いればラジカルイオン対の形成が抑制され電荷再結合が遅くなるだろうか、その効果を高めるための理論と分子設計はいかなるものか」という問いを抱くに至った。 今回アニオン性光増感剤として、スルホン酸が置換したカルバゾールとフェノール性水酸基を有するカルバゾールの二種類に着目した。どちらも短段階で合成することができた。光増感剤として用いたところ、スルホン酸が置換したカルバゾールは光による分解が速く光増感剤として低活性であることが分かった。続いてフェノール性水酸基が置換した光増感剤は高い還元力を示した。精査したところ、フェノール性水酸基が塩基性によりアニオン状態になっていることが鍵であった。この光増感剤を用いると通常困難なC-F結合の還元的切断反応、そして芳香族の脱芳香族的還元反応(バーチ還元)が可能であることが分かった。どちらの反応も通常低原子価金属などで達成するのが定法であり、その常識を覆す結果となった。
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