研究領域 | 動的エキシトンの学理構築と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
23H03975
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
村岡 梓 日本女子大学, 理学部, 准教授 (70614014)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非フラーレン型アクセプター / 有機薄膜太陽電池 / 振電相互作用 |
研究実績の概要 |
PDCBT/BTAx D/A複合体は、短絡電流密度(JSC)と光電変換効率(PCE)の大きさに相関があること報告がされている。この相関を考えるべく、非断熱過程によるCT状態からの再結合のメカニズムが重要であると考えた。つまり、CTエキシトン状態における動的過程を解析するために、Frank-Condon シミュレーションを行いエキシトンーフォノン結合の強さを示す Huang-Rhys因子を算出した。この結果、PDCBT/BTA3複合体は、PDCBT/BTA1複合体よりも高波数側でより強いHuang-Rhys (HR)因子が現れた。従って、フェルミの黄金律に基づくと、周波数が小さいほど状態密度が大きくなり、その結果遷移確率が大きくなる、つまり非断熱プロセスが起こりやすくなることがわかった。従って、HR解析によると、PDCBT/BTA1は、PDCBT/BTA3よりも非放射再結合を起こしやすく、JSCが低くなると考える。 次に、エキシトンの解離過程について考察した。励起状態での安定状態における電荷移動距離に着目すると、PDCBT/BTA3 の電荷移動距離が長いことから、エキシトンが解離しやすいと考えられる。また、緩和過程では、PDCBT/BTA3 のエネルギー変化は小さく電荷移動距離が大きい。ΔEHOMO(D)-LUMO(A)とVOCとの差はPDCBT/BTA3の方が大きいことから、PDCBT/BTA3のVOC損失が大きいことがわかった。VOCの損失は CT状態での再結合によるものなので、PDCBT/BTA3は CT状態で非放射緩和を受ける可能性が高い。これは、PDCBT/BTA1 の CT状態がより非断熱的に基底状態に遷移し、PDCBT/BTA3は低い再結合率によってJSCが大きいこと、緩和によるエネルギー損失が大きいことを示していると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題をこなすことによって、理論研究の礎を築くことができた。また、量子化学計算を用いることによって、ドナーアクセプター界面における振電相互作用を解明することができた。この成果について、論文執筆、招待講演、受賞など、アウトプットもできている。おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
密度汎関数法を用いて、非フラーレン型アクセプターNTz分子は分子間電荷移動によって分極が生じフッ素置換をすることで分子内分極が大きくなることを報告した。このように、分極が支配的な極性物質ではシフト電流の発生が期待でき、分極電流や指向性を示すのではないかと予測される。また、シフト電流を発現する系では、光励起に際して電子雲の重心が実空間シフトする、すなわちワニア型エキシトンが生成していると考えられる。NTzでみれる、分極を強めた有機太陽電池材料系におけるシフト電流光起電力効果発現の可能性を理論的に検討する。具体的には、極性の強いドナー分子とNTzの複合体について、時間依存密度汎関数法により、電子励起に伴う電子雲の重心の実空間シフトを解析する。
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