研究領域 | 次世代アストロケミストリー:素過程理解に基づく学理の再構築 |
研究課題/領域番号 |
23H03984
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
百瀬 宗武 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (10323205)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 大質量星形成 / 星間物質 / 星間化学 |
研究実績の概要 |
本研究計画では,メタノールメーザーを伴う大質量原始星のうち,進化段階早期にあると期待される『周期変動メーザー源』周囲におけるガスの化学的特徴を,『それ以外のメーザー源』と比較しながら明らかにすることを目的とした。周期変動を示すメーザー源が相対的に若いという仮説を星間化学の観点から検証し, 若い原始星を特定する新手法の確立を目指すとともに,大質量原始星周辺におけるガス化学の進化と多様性に関するより深い理解の獲得を目指した。サンプルは比較的近傍にある天体24個を選び,うち半数を,我々が初めて見つけたものを含む周期変動メーザーとした。野辺山45m電波望遠鏡を用い,90GHz帯,及び40GHz帯の3つの異なる周波数設定による分光観測を通じて,系統的に高密度ガスの化学組成の特徴を調査していく。初年度である令和5年度分事業では,24天体中16天体について,全ての周波数設定でデータ取得を行なった。当初の予定では,90GHz帯ではマルチビーム型受信機FORESTの特徴を活かし,メーザー方向だけでなくその周囲の隣接点4方向でのスペクトルを同時取得し,大局的な輝線の空間分布についても抑える予定であった。しかし計画立案当初では予期していなかった分光計SAM45の故障が観測シーズン開始直前に発生し,空間分布を抑えるためには大幅な時間増が見込まれたため,方針を変更し,メーザー方向に絞ったシングルポインティングでより深い観測を実行することにした。SAM45以外には装置トラブルもほぼなく,天候にも恵まれたため,科学目的に叶う質のデータ取得という観点からは当初の想定通り遂行できた。サンプルが広い天域に点在しており,観測割り当てが11月から3月下旬まで断続的にあったため,データ解析は次年度にまとめて行う。茨城大学からの遠隔観測実行,およびデータ解析の環境整備についてもほぼ完了させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野辺山45m望遠鏡のバックエンドSAM45の故障により,FOREST受信機を用いた観測に対して当初の設定として予定していた,各天体・各周波数設定での5点マッピング観測はできなかった。しかし観測所から,故障の補填として時間配分が割増され,さらに天候にも比較的恵まれたことから,天体ごとに星周物質の化学的性質の違いを議論するために必要なデータは1点観測により十分取得できた。茨城大学からの遠隔観測環境の整備も行い,効率的な観測実行が可能となり,次年度の研究遂行にも大きな障害はない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の前半は,今年度取得したデータの解析を進める。N2H+,CH3CN,CH3CCHのデータに対しては,超微細構造およびKラダーに伴う複数の遷移を同時にフィットし,それぞれの分子に対する柱密度や励起温度を算出する。一方,シアノポリイン(HC3N,HC5N)やメタノールについても回転遷移に伴う輝線を複数の周波数で得ており,これらを同時にフィットすることで,それぞれの分子に対する柱密度や励起温度を算出する。以上の結果を踏まえて,分子種の相対的な存在比が,周期変動を示すメーザー源とそれ以外のものとで異なるかどうかを検証する。解析の進み具合に応じて,茨城大学の米倉覚則教授や山口大学の元木業人准教授とも連携しながら議論を深め,適切な機会に研究発表を行う。年度の後半は野辺山45m望遠鏡の観測でデータが取得されていない天体の観測を実行する。基本的には昨年度と同様の設定で観測を進めるが,解析を進める過程で鍵となる分子輝線が見つかった場合には,限られた天体に対して空間分布を抑える観測も併せて実行する。以上の観測実行(望遠鏡時間購入を含む),研究打ち合わせ,及び成果発表に必要な費用に本研究の資金を充てる。
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