研究領域 | 高密度共役の科学:電子共役概念の変革と電子物性をつなぐ |
研究課題/領域番号 |
23H04025
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 康弘 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (00415184)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
本研究では、光検出NMRや磁気イメージング法と組み合わせた高感度かつ高分解能の光検出NMRシステムを構築することで、超高密度共役系の電子状態とダイナミクスを微視的に解明すること目的とし、新たに核スピン間のスカラー結合を利用したゼロ磁場核磁気共鳴計測システムをセットアップしてきた。検出系として超偏極Rb原子蒸気セルを用い、偏極した試料からのNMR信号をFaraday効果により高感度に計測した。今年度はまず、光検出NMRによって精密に分子軌道形状や環電流の局所分布を計測する研究課題に取り組んだ。高磁場下のNMR分光では摂動計算により分子構造を紐解くが、ゼロ磁場下では、スピン間の量子もつれを解析的に解くことで厳密な分子構造やコンフォメーションが得られる。そのため、市販の高磁場NMR測定では到底得られないような、長距離の核スピン間相互作用や環電流の局所分布などの詳細な情報を抽出することができる。 さらに、高密度共役系の分子間相互作用を自在に制御するためには、分子修飾による化学的アプローチと超高圧印可による物理的なアプローチが考えられるが、光検出システムを用いると従来よりも大幅に圧力制御範囲を拡大できる可能性がある。今年度は、パルスNMRにより核スピンをフリップさせたときの磁場変化を電子スピン共鳴信号の減衰として観測した。この手法により大幅に検出感度の向上が期待されると同時に、これまで困難であった低周波のNMRおよび核四重極共鳴測定が可能となると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超伝導磁石や検出コイルを必要としない持続可能なプローブへとNMRを進化させ、低磁場かつ微小試料の計測を実現するために、高感度の原子光学的な磁気プローブに注目し、NMRへの応用展開に取り組んできた。今年度は、新たにゼロ磁場磁気共鳴を行うための磁気センサなど設備をセットアップし、ナノテスラ以下の精度でゼロ磁場が実現していることを確認した。また、磁気センサの動作確認、および試料の磁場循環システムの構築を行った。現存する最高感度の磁気センサである超偏極アルカリ原子ガスを用いたポンプ-プローブ分光によって、ゼロ磁場および超弱磁場下で微小試料の高分解能13C NMR測定に成功した。通常のNMRスペクトルの分解能を上げるには高磁場を必要とするが、逆にゼロ磁場下でも存在する核スピン間のスカラー結合を精密に測定することで、厳密対角化計算との比較を可能にし、精密な物質同定が行えるようになった。 また、ナノスケールの空間分解能を有する磁気プローブを開拓するために、ダイアモンド中の窒素欠陥(NV)中心を用いた光検出磁気共鳴に関する研究を推進してきた。その性能を決めている量子コヒーレンス時間を定量的に評価するために、新たに光検出二重共鳴法を応用してNMRスペクトルを計測可能なシステムを構築した。
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今後の研究の推進方策 |
常圧化で絶縁体である物質を金属化し、創発的な機能性発現を開拓するために、高密度共役系の超高圧下の物性を調べる。高圧発生装置として、ダイアモンドアンビル高圧セルを用い、物性測定方法として、光学伝導度およびNMRを用いる。従来の手法では、測定試料に直接NMR検出コイルをセットするため、狭い試料空間の100GPa級の超高圧実験は困難であったが、検出コイルを必要としない光検出型のNMR測定を行うことで、100GPa級の磁気測定を可能にする。今後は、より磁場感度を向上させるために、デコヒーレンスの要因となる13C核スピンを含まない高純度ダイアモンドを用いる。また、電子二重共鳴によって不純物窒素のスピン分極を消失させるなどの技術的な改良に取り組む。従来のNMR計測技術では100μg程度が検出限界であったが、光検出NMRにより最小検出感度を大幅に更新し、より高い分解能をもつNMR測定の実現が期待できる。検出が容易な有機溶媒などの液体試料の1H NMR測定からはじめ、最終的には領域内の研究グループとの共同研究を推進し、様々なπ共役分子の精密NMR計測を行う。その後、ダイアモンドアンビルセルにNV中心を埋め込むことで超高圧下のNMR計測を行う。また、分子間相互作用もしくは物性変化は、高圧下の物光学伝導度計測により評価する。
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