公募研究
トリオキソトリアンギュレン骨格周辺部にベンゼン環やインダノン骨格を縮環させた誘導体の合成に成功した。前者については、中性ラジカル種はトリオキソトリアンギュレンと同様に空気中室温でも安定に取り合え使えることがわかった。ESRスペクトルにより電子スピン構造を調べ、量子化学計算で予想された通り縮環部を含む分子骨格全体に電子スピンが非局在化していることがわかった。また、その強度の温度変化から溶液中で高いπ積層能をもつことがわかった。インダノン縮環体については、電気化学測定において縮環部に由来する新たな酸化還元能を示すことが明らかになった。また、トリオキソトリアンギュレン骨格内部の炭素原子を硫黄原子で置換した類縁体についても、無置換体の合成・単離に成功した。この中性ラジカル種もトリオキソトリアンギュレンと同様に空気中室温でも安定に取り扱えることがわかった。ESRスペクトルにより電子スピン構造を調べ、量子化学計算で予想された通り硫黄原子を含む分子骨格全体に電子スピンが非局在化していることがわかった。また固体電子スペクトル測定では、一次元π積層カラム構造に基づく近赤外光吸収帯が観測され、高い電気伝導性を示すことが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
上述のように、トリオキソトリアンギュレンからさらに縮合多環構造を拡張した誘導体2種合成に成功した。それぞれについて、縮環骨格に基づく電子スピンおよび酸化還元能の変調という化学修飾の効果を明らかにした。硫黄原子置換体についても無置換体の合成と電子物性の解明に成功した。これらは高密度共役に基づく新たな機能探索のシーズとなるだけでなく、さらなる化学修飾の基礎的知見となる。
R6年度は、前年度中に合成した2次元π拡張トリオキソトリアンギュレンおよび硫黄原子置換体について、中性ラジカル状態での結晶構造解析を行い、これらの化学修飾がバルクでの高密度共役化にどのように貢献しているか明らかにする。さらにそこから導かれる電気伝導性や磁性などの機能性について調査し、領域内外での共同研究の可能性を検討する。また、前年度の研究成果をもとに新たな中性ラジカル分子の設計・合成を行う。具体的には、縮環骨格をさらに大きくしたものや、硫黄原子に加えて窒素原子も導入したトリオキソトリアンギュレン類縁体の合成に挑戦する。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件)
Chemistry Letters
巻: 53 ページ: upae030
10.1093/chemle/upae030
Langmuir
巻: 39 ページ: 6846-6854
10.1021/acs.langmuir.3c00438
J. Phys. Chem. Lett.
巻: 14 ページ: 6241-6247
10.1021/acs.jpclett.3c01002
Chemical Communications
巻: 60 ページ: 878-880
10.1039/D3CC04840C