研究領域 | マテリアルシンバイオシスための生命物理化学 |
研究課題/領域番号 |
23H04058
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
北尾 彰朗 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (30252422)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 複合体立体構造予測 / 結合親和性予測 / ColDock / evERdock / PaCS-MD/MSM |
研究実績の概要 |
この領域の森グループとの共同研究として行ったポリエチレングリコール(PEG)と抗PEG抗体の相互作用の解析に進展があった。抗体の抗原結合部位1個に対してPEG鎖1本の系に関しては、PEG鎖が抗体の結合部位上をスライドしながら相互作用をしていることを明らかにし、スライドに要する拡散係数は、T細胞依存(TI)抗原とT細胞非依存(TD)抗原によって得られた抗体間で大きく異なっていることも示すことができた。これらの結果については論文投稿段階に至っている。さらに複数の相互作用の総和としてのAvidityの効果を調べるため、抗体の抗原結合部位1個に対してPEG鎖が複数本ある系についても改良を行い、脂質の結合したPEG鎖を用意することで順調にMD計算の実行を開始し、その後計算を進めている。 前仲グループとの共同研究として行った、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)が免疫細胞の攻撃を抑える際に用いるglycoprotein B (gB)と宿主の免疫細胞表面にあってこれと結合する抑制化型PILRαとの相互作用についても進展があった。具体的にはgB 由来のGalNAc型のグリコペプチドとGlcNAc型のグリコペプチドに注目し、ダイナミクスやPILRαとの水素結合の違いを詳しく調べた。その結果、特定のヒスチジン残基との有意な相互作用の違いがみられた。これが分子認識において重要な効果をもたらしていると考えられる。 更にタンパク質が結合する分子の微細な違いを区別し、異なる応答をする仕組みを調べた。うまみ受容体と異なるアミノ酸の結合能の違いは、結合自由エネルギー計算から再現することができた。微細な糖の違いを認識し輸送するナトリウム―グルコース共輸送体SGLTに関しては、新しく実験で得られた立体構造に基づいてシミュレーションを再実行し、結合親和性の計算を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から計画していた、PEGと抗PEG抗体の相互作用研究、PILRαとgBの相互作用研究、うまみ受容体とアミノ酸の分子認識機構、ナトリウム―グルコース共輸送体SGLTの糖の認識機構について、おおむね予定通りの研究進捗が達成できたため。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、これまで我々が開発してきた先端的な分子シミュレーションであるPaCS-MD/MSM法等をマテリアルとタンパク質の複合体などにも利用できるように改良することで、「弱い相互作用」の定量的評価を可能にする。また物質共生に関わる分子間の相互作用とそれによって引き起こされる分子レベルでの応答を、免疫反応を中心に明らかにする。具体的には、この領域の研究者と連携して、ポリエチレングリコール(PEG)と抗PEG抗体の相互作用や、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)が免疫細胞の攻撃を抑える際に用いるglycoprotein B (gB)と、宿主の免疫細胞表面にあってこれと結合する抑制化型PILRαとの相互作用について、その定量的な評価と分子レベルでの効果を明らかにする。更にタンパク質が結合する分子構造の微細な違いを区別して認識し、異なる応答をする仕組みを、様々なアミノ酸を結合し得るうまみ受容体、基質となる糖の違いを認識し輸送するナトリウム―グルコース共輸送体SGLT、細胞外からの様々なリガンドに応答して異なるシグナルを伝達するGタンパク質共役受容体(GPCR)の一種であるアデノシンA2A受容体等において明らかにする。これらの研究についてはすべて前年度までに開始しているが、本年度はこれらの研究を取りまとめることを目指す。
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