公募研究
ヒト免疫不全ウィルス(HIV)に対する防衛手段として、ヒトはAPOBEC3G(A3G)及びAPOBEC3F(A3F)タンパク質を有している。両タンパク質は、HIVのプラス鎖RNAから逆転写によって生成されたマイナス鎖DNAに作用し、シトシンを脱アミノ化してウラシルに変換する。これによってHIVのゲノム情報が書き換えられ、無力化する。しかしHIVのVifタンパク質は、ヒトのCBFβ、ELOB、ELOC及びCul5タンパク質と5者複合体を形成し、A3GとA3Fをユビキチン化して分解に導いてしまう。このように宿主とウィルスは激しい攻防を繰り広げている。最近、Vif 5者複合体は、A3GとA3Fの脱アミノ化活性を直接阻害する事で、両者を無力化する可能性が指摘された。今回、Vif 5者複合体によるA3GとA3Fの脱アミノ化活性の阻害を、NMR法を用いた反応のリアルタイムモニタリングによって検証した。その結果、この阻害が確かに生じる事が明らかとなった。これまでVif 5者複合体はA3GのN末側のドメインに結合してユビキチン化を為す事が知られていたが、脱アミノ化を阻害する際には、Vif 5者複合体はA3GのC末側のドメインに結合してこれを為す事が分かった。また、Vif 5者複合体はA3Fの脱アミノ化活性も阻害する事が分かった。Vif 5者複合体の負の効果を無力化する為には、ユビキチン化に加えて脱アミノ化阻害も抑制する化合物の開発が必要となると考えられる。加えて、核酸に関するインセルNMR法の方法論の開発とその応用も行った。
2: おおむね順調に進展している
HIVはヒト細胞内に存在しつつ、宿主と激しい生存の為の攻防を繰り広げている。ウィルスにとって脅威となる宿主タンパク質を、ユビキチン化・分解によって無力化する事がこれまで知られていた。これとは別の生存戦略として、ウィルスにとって脅威となる宿主タンパク質の酵素活性の直接的な阻害という可能性が、最近指摘されている。本研究ではこの戦略の可能性を、リアルタイムNMR法によって直接証明する事に成功した。また、インセルNMR法の方法論の開発と応用に関しても、進行させた。
物質共生を理解する上で、ウィルスと宿主の生存の為の激しい攻防は、反面教師として参考になる。HIVのVif 5者複合体とヒトのAPOBEC3タンパク質との相互作用に関し、上述した脱アミノ化阻害とは別に、新しい予想外の知見を得つつある。これに関する研究を今後進展させる。また、インセルNMR法の開発と応用に関する研究も引き続き進行させる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Biophysical Journal
巻: 123 ページ: 294~306
10.1016/j.bpj.2023.12.015
https://www.iae.kyoto-u.ac.jp/bio/