研究領域 | マテリアルシンバイオシスための生命物理化学 |
研究課題/領域番号 |
23H04088
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
遊佐 真一 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (00301432)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 光応答性 / ポリベタイン / 静電相互作用 / ホスホリルコリン / ポリアンホライト / 双性イオン / 制御ラジカル重合 / マラカイトグリーン |
研究実績の概要 |
本研究では、光で電荷を制御できるポリアンホライトと、ホスホリルコリン(PC)基を表面に持つ細胞膜の相互作用を定量的に調べて、マテリアルの電荷状態が細胞との相互作用に及ぼす影響を明確にする。そのため、まず光でポリマー中の電荷比をずらすスイッチング機能を持つ水溶性のポリアンホライトを合成する。具体的には、カチオン性およびアニオン性モノマーと、光でカチオンを生じるマラカイトグリーンを側鎖結合したモノマー(MG)または、光でアニオンを生じるo-ニトロベンジルメタクリレート(NBM)を少量共重合する。ポリアンホライトの合成法として、制御ラジカル重合法の一種である可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)型重合を用いることで、分子量を制御する。 次に合成した光応答性ポリアンホライトを用いて、細胞膜との相互作用を調べる。少量のMGまたはNBMを含む、電荷を打ち消したポリアンホライトと、赤血球を混合する。光によるポリアンホライトの電荷の割合の変化が、細胞膜との相互作用にどのように影響を及ぼすのか定量的に評価する。この研究結果は、細胞表面との相互作用の強さを、光で調節可能な薬物担体用の高分子ミセルやベシクルの表面設計等への応用展開が期待される マテリアルの荷電状態と細胞の相互作用を系統的に調べるため、各モノマーの組み合わせにより、光照射で電荷状態が変化するポリアンホライトを合成する。合成の確認はNMRやサイズ排除クロマトグラフィーで行う。次にMGやNBMを含むポリアンホライトの荷電状態を、光でスイッチングできることを、ゼータ電位の変化で確認する。光応答性ポリアンホライトと細胞の相互作用を明らかにするために、最初から細胞を使うと実験系が複雑になる。そこで最初にPMPCおよびベシクルとの相互作用を調べ、ポリアンホライトの構造最適化を行った後で、細胞との相互作用を評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞膜との相互作用を、外部刺激で自由に調節可能な高分子材料を開発できれば、マテリアルと細胞の相互作用を、目的に応じて制御できるようになる。光で電荷バランスをスイッチング可能なポリアンホライトを、高分子ミセルやベシクル等の微粒子のシェルに用いると、微粒子と細胞膜の相互作用を光で調節できるようになる。例えば、光でポリアンホライト全体の電荷がプラスに偏ると、アニオン性表面の細胞膜との静電相互作用が強くなり、エンドサイトーシスが誘起される可能性がある。一般のカチオン性高分子は、細胞毒性を示すが、光の照射時間でカチオンの生成量を調節することで、細胞毒性を最小限に抑えられる。さらに、光で電荷バランスをスイッチング可能なポリアンホライトを、医療材料等の表面に被覆することで、光のオン・オフで細胞との相互作用を制御可能な材料表面を構築できる。例えば、光応答性表面を持つ細胞培養皿は、光のオン・オフで培養皿上での細胞増殖または、細胞シートの剥離をコントロールできると期待される。 2023年度は、少量の光で電荷を生じる側鎖官能基と、4級アンモニウム塩および、リン酸基を側鎖に含む3元のランダム共重合体であるポリアンホライトの合成とキャラクタリゼーションを行った。これらのポリアンホライトの電荷は中和した状態になるように、重合した。光応答性官能基としては、光でカチオンを生じるマラカイトグリーンを側鎖結合したモノマー(MG)または、光でアニオンを生じるo-ニトロベンジルメタクリレート(NBM)を用いた。リン酸を含むモノマーは市販品を購入できるが、ビニル基を2つ含む不純物が少量含まれているため、重合すると条件によってはゲル化する。そこで、リン酸のヒドロキシル基を保護したモノマーを合成して、それを重合してから脱保護を行った。このような合成法により、ゲル化することなく重合できることを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に合成した光応答性の官能基であるMGまたはBMAを含むポリアンホライトのキャラクタリゼーションを引き続き行う。さらにカチオン性の四級アミンを含むモノマーと、ヒドロキシル基を保護したリン酸基を含むモノマーのモル比を、さまざまに変化したランダム共重合体を合成する。カチオンとアニオン性モノマーの組成比の違いが、水中でのゼータ電位にどのように影響するのかを調べる。また、光を照射したときに光応答性の官能基からカチオンまたはアニオンを生じることを可視-紫外吸収スペクトルで確認する。さらに、ゼータ電位からも、光照射によりイオンを生じることを確認する。光照射による電荷バランスの変化により、ポリマーの会合状態がどのように変化するのかを動的光散乱(DLS)で調べる。 次に、光で電荷状態を制御可能なポリアンホライトを合成できれば、次にリン脂質で、人工的に作製した作成したベシクルとの相互作用をDLSや透過型電子顕微鏡(TEM)などで評価する。光でポリアンホライトとベシクルの相互作用を制御できることを確認できれば、ポリアンホライトと細胞との相互作用を光で制御できるか調べる。
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