研究領域 | 超秩序構造が創造する物性科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04124
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
清水 荘雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 電子・光機能材料研究センター, 独立研究者 (60707587)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 強誘電性 / 置換元素 / ウルツ鉱型構造 / 局所構造 |
研究実績の概要 |
ウルツ鉱型材料は、巨大な自発分極を示すことから大きな注目を集めているが、分極反転に必要な電界(抗電界)が大きく、実用化には大きな課題が残っている。本研究課題では、ウルツ鉱型強誘電体における抗電界が、固溶体の形成つまり元素置換によって顕著に低下することに着目し、この置換元素の構造を超秩序構造とみなして、抗電界低減を可能とするこの置換元素種の探索と局所構造解明を行う。2023年は、無置換AlNにおける強誘電性と、(Al, Sc)NにおけるScの局所構造解明を行ったので、以下に報告する。 従来の報告によれば、(Al, Sc)Nにおいては、Sc濃度10%以上の領域において強誘電性の発現が確認されているが、無置換のAlNにおいては室温での分極反転の報告はなかった。そこで本研究では、AlNにおける強誘電性の発現について研究を行った。はじめに、450℃で成膜したAlN膜の強誘電性について調査したところ、140 ℃以上の温度においては明瞭な強誘電性を確認できたのに対して、室温においては絶縁破壊が起こるため十分な電界を印加することができず、部分的な分極反転にとどまっていた。そこで、成膜温度を変化させることによって、絶縁破壊電界の改善を行ったところ、250 ℃での成膜によって8 MV/cm以上の絶縁破壊電界を得ることができ、室温での強誘電性の確認に成功した。 置換元素による抗電界の役割を理解するためには、置換元素の局所構造の解明が必要である。そこで、2023年度は蛍光X線ホログラフィー(XFH)測定およびX線吸収微細構造(XAFS)解析を行った。予備的な解析結果から、ScがAlが本来占めている原子位置よりも、窒素四面体の底面近傍に位置していることを示唆する結果を得ている。また。XAFS測定の解析によっても、Sc-N間の距離が長くなっていることが示唆されており、XFHの結果を支持する結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AlNにおける強誘電性の発現ウルツ鉱型強誘電体のSc置換効果に対して、Sc濃度依存性を広範囲を明らかにすることができた。この結果は、強誘電性に対する置換元素の役割を解明するうえで重要な知見になると考えている。また、置換元素の局所構造解明として蛍光X線ホログラフィーおよびX線吸収微細構造(XAFS)解析を行っており、これらの解析によるSc元素の局所構造解析が進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
新規置換元素の網羅的探索については、2024年度は2023年度に引き続きAlNに対する元素置換した系について探索を行う。2023年度同様、多元カソードを持つスパッタリング装置を用いて、傾斜組成を持つ膜を同時に作製するコンビナトリアル手法によって、効率的な探索を行う。2024年度については、Sc・Bに加えてMnやV、Crといった遷移金属元素の置換を行うことを考えている。Al、ScとBといった元素では化合物中の価数が3であるのに対して、遷移金属元素では種々の価数をとることが可能である。このため、電荷補償によって抗電界の低減が期待できる。 置換元素の局所構造解明については、実際の局所構造観測として当該学術変革領域で精力的な研究・開発がおこなわれている放射光施設における蛍光X線ホログラフィーを行うことを計画している。2年目にあたる2024年度については、AlNに対してカチオンをScに置換した試料について、蛍光X線ホログラフィー測定を行う。現在Sc20%置換した試料に関する蛍光X線ホログラフィーの測定ができているため、本年度はSc濃度がさらに高い40%とした試料について測定を行うことを予定している。また領域内の連携によって、光電子ホログラフィー等、軽元素に対しても局所構造観察が行える測定手法についても検討する。
|