公募研究
変化する外気温シグナルは,植物の発生プログラムに大きく影響する.この気温に応じた組織・器官の形態変化を熱形態形成とよばれる.私達は,細胞核内構造体カハールボディの液―液相分離が熱形態形成に関与している可能性を見いだした.今年度は核内構造体カハールボディの形成と熱形成遺伝子群の発現調節について以下の2点について研究を遂行した.A.カハールボディ形成不全変異体coilinにおける熱形態形成関連遺伝子の発現変動を明らかにした.RNA-seqによるカハールボディ形成不全変異体coilinにおける,常温22℃と熱形態形成誘導温度27℃の比較トランスクリプトーム解析をおこなった.その結果,coilin変異体では転写制御因子PIF4が発現制御している下流遺伝子群 (IAAおよびSAUR等)の発現量が顕著に上昇していることがわかった.これら遺伝子の発現誘導は温度処理後速やかに起こり,6時間でピークに達していた.そこで,COILINとPIF4を欠損したcoilin pif4二重変異体を作出して解析したところ,coilin変異体で見られた発現量変化が完全に消失した.これらのことから,COILIN依存的な熱形態形成にはPIF4系路が必須であることがわかった.B.カハールボディの構成因子を同定した.本研究に先だって,シロイヌナズナのカハールボディのプロテオミクスを行っており,既に50種類以上の構成タンパク質候補を同定していた.これらの因子は液―液相分離を担う「天然変性タンパク質」が多数含まれていた. カハールボディの形成を担う因子探索のために,これらタンパク質にGFPを融合させて,一過的に発現させることによりカハールボディ局在タンパク質を探索した.その結果,これまでに18種類の新規カハールボディタンパク質を同定することができた.これらの多くはRNA代謝に関連するものが含まれていた.
2: おおむね順調に進展している
計画初年度において, RNA-seqによるトランスクリプトーム解析および,多数のカハールボディタンパク質を同定することができた.トランスクリプトーム解析ではカハールボディによる熱形態形成制御因子としてPIF4およびオーキシン関連遺伝子群が重要な働きを担うことを示唆することができた. GFP融合タンパク質を用いた細胞内局在解析から新規のカハールボディタンパク質を複数同定でき,研究期間全体で立てた3つの研究計画の柱の 1つを初年度に遂行できた.
カハールボディと相互作用する遺伝子群をゲノムワイドに探索するために,クロマチン免疫沈降-sequence (ChIP-seq)を行う.カハールボディー可視化ラインU2B-GFPおよびCOILIN-GFPを発現するシロイヌナズナを用いて,22℃および27℃の異なる温度条件で検討を行う.今年度までに既に予備的データが得られているが,より再現性の高い結果を得るために,クロマチン免疫沈降を行う際の組織固定条件を検討する予定である.ChIP-seqで同定された相互作用候補遺伝子については,ChIP-qPCR相互作用を確認する.前年度で得られたトランスクリプトームのデータと併せることで,熱形態形成時の遺伝子発現制御機構の分子機構の解明を目指す.また,熱形態形成時におけるカハールボディの形成機構に迫るため,カハールボディ形成不全変異体のスクリーニングを進める.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
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