公募研究
ニューロンは外部刺激に応答して、短期的にはシナプス結合の再編成を、長期的には遺伝子発現の変化を介して自身の性質を変化させていく。このニューロン可塑性は臨界期の基盤であり、特に遺伝子発現の可塑性を理解することは、それぞれのニューロンが生涯にわたって果たす役割を決定するメカニズムを理解する上で非常に重要である。本研究ではまず、外界から刺激を受けたときのニューロンの核の形態変化の過程を、生体脳タイムラプスイメージング手法にて観察することを目指した。ニューロンにおいて核の形態を可視化できるマウス(Nex-Cre+/-;SUN1-GFP+/-)を作製し、2ヶ月齢の若齢大脳皮質視覚野のニューロンを観察するための顕微鏡の窓を取り付け、マウスの眼に光を当てることでニューロンの生理的な刺激を実現した。タイムラプスイメージングの実験により、2ヶ月齡の若齢マウスでは光照射後10分程度で核が徐々にへこんでいくことがわかった。また、核の形態を老齢マウスでも調べるために、上記と同様の実験を2年齢の老齢マウスでも実施した。その結果、老齢マウスではそもそも刺激を行う前からへこんだ核が多いこと、そして光照射を行なっても核の形態がほとんど変化しないことが明らかとなった。この結果から、ニューロンでも加齢に伴って核がいびつな形となり、さらに形態変化がしにくくなることが明らかとなった。さらに、核の形態変化の原因の一つとして核の剛性の変化をと考え、原子間力顕微鏡を用いて、若齢マウスあるいは老齢マウスから抽出したニューロンの核のかたさを測定した。その結果、ニューロンの核は加齢に伴ってかたくなることがわかった。2023年度はこの成果を論文として発表した(Frey et al., Aging Cell, 2023)。
1: 当初の計画以上に進展している
概要に示したように本年度は研究の成果を論文として発表することができた。本論文は領域内共同研究の成果でもあり。当初の計画以上に研究が進展している。
2023年度に発表した成果をもとに、現在はニューロン核の形態的・物理的変化の意義やメカニズムの解明に取り組んでいる。具体的には、神経活動や神経変性疾患などニューロンの機能が変化するときに、核の形態的・物理的な性質がどのように変化するかを調べる。また、プロてオーム解析などを通じて、この変化の責任分子を同定することを目指している。
すべて 2024 2023 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 5件) 備考 (1件)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
巻: 121 ページ: e2317783121
10.1073/pnas.2317783121
Aging Cell
巻: 22 ページ: e13925
10.1111/acel.13925
Nature Communications
巻: 14 ページ: 6420
10.1038/s41467-023-42094-9
https://www.iqb.u-tokyo.ac.jp/pressrelease/230725/