研究実績の概要 |
本研究は、「複数の発達障害を統一的に理解できる生物学基軸を発見すること」と、「それに基づく脳活動状態駆動型神経刺激法(Brain-state-driven neural stimulation, BDNS)を用いた治療法を開発すること」を目的としている。具体的にはADHD及びASDとADHDの合併症例を本研究の対象とする。過去の我々の研究が示唆しているように、これら罹患率の高い発達障害に対して「神経遷移ダイナミクスによる理解」と「動的神経刺激による制御」というアプローチが機能するということが示されれば、他の精神疾患に対しても同様の手法が有効であるという可能性も開けてくる。 本年度は、ADHD当事者及びASD+ADHD合併症当事者から得られた安静時脳活動データ(resting-state fMRI data)に対して、エネルギー地形解析(energy landscape analysis)というデータ駆動型解析手法を適用することで彼ら独自の大脳神経活動の遷移ダイナミクス(brain state dynamics)を同定した。結果は国際学術誌に掲載された(Watanabe & Watanabe, eNeuro, 2023)。並行して、自発的課題切替テスト、視覚意識の柔軟性を調べるためのbistable perception test、Jumping to conclusion傾向を定量化するためのbeads test、行動抑制の程度を定量化するためのstop-signal taskを、ASD当事者、ADHD当事者、ASD+ADHD合併症当事者及び定型発達者(typically developing individuals)に実施してもらい、どの心理行動実験でそれぞれのグループが定型発達者に比べてどのような行動パターンを示すのかを明らかにした。最後に、大脳神経ダイナミクスの特徴と複数の心理実験の行動パターンとを比較することで、どのような神経ダイナミクスがどのような非定型的行動に相関しているのかを同定することにも成功した。
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