研究領域 | マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界 |
研究課題/領域番号 |
23H04253
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古畑 隆史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (50882635)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ユビキチン / 不均一鎖 / シャトル因子 / DNAバーコーディング / 相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、特に不均一鎖に焦点を当て、ポリユビキチン鎖とシャトル因子の"多対多"の相互作用解析の実現を目指すものである。具体的には、タンパク質のDNAバーコーディングとInteraction-dependent PCR法 (ID-PCR法) に着目し、各種ポリユビキチン鎖とシャトル因子の相互作用の強弱をDNA配列解析により抽出可能とすることを試みる。本年度は、その基礎段階としてポリユビキチン鎖やシャトル因子へ、DNAタグを1対1修飾する手法の確立を行った。これまでに、近位C末端をチオエステル化したK48/K63不均一ユビキチン鎖の合成スキームを確立するとともに、システインを導入したDNAを用いてS-to-Nアシル転移反応を介したDNAによるポリユビキチン鎖との1対1修飾を実現している。以上の反応は、一般的なタンパク質の化学合成や化学修飾反応で必要とされる変性剤を使用することなく進行するよう最適化されており、相互作用解析の実現に向けて、タンパク質の構造への影響は最小限に抑えられているものと考えられる。また、DNAタグだけではなく、小分子やタンパク質の1対1修飾も実証しており、ID-PCRの結果の検証へ応用が期待できるほか、プロテアソームやユビキチン認識タンパク質による不均一ポリユビキチン鎖の認識について構造活性相関の抽出が可能であることを示した。ポリユビキチン鎖以外のタンパク質についても、チオエステル化を達成しており、同様の反応系によるシャトル因子のDNAタグ修飾への応用が可能であると考えられる。以上の分子技術を用いてID-PCR法へ展開することにより、ポリユビキチン鎖とシャトル因子との混在系における相互作用の詳細な理解につながるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、異なるDNAタグでバーコーディングしたポリユビキチン鎖とシャトル因子のライブラリ構築に向け、DNAによるタンパク質の1対1修飾法を確立する予定であった。実際、これまでに近位C末端に官能基を有するポリユビキチン鎖の酵素的合成とそれを用いたDNAとの1:1修飾を実証するに至った。これは、ID-PCRを用いた"多対多"の相互作用定量解析の実現に向けて基盤となる方法論であり、本手法の応用による速やかなDNA修飾タンパク質ライブラリの構築が見込まれる。本年度は上記内容を含む成果を学術誌、および学会において精力的に報告しており、関連領域への貢献を果たしたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、厳密に構造を制御した不均一鎖の酵素的な構築とDNAによる1対1の修飾反応を実証した。次年度は、ID-PCRによるシャトル因子とポリユビキチン鎖の"多対多"の相互作用に向け、異なるDNA配列によりバーコーディングしたシャトル因子、およびポリユビキチン鎖ライブラリの構築を行う。さらに、既知の相互作用ペアを用いてID-PCR法による相互作用の検出系を、定量PCR等を用いて確立する。その後、構築した実験系を応用し、複数種のポリユビキチン鎖とシャトル因子が含まれる混在系にID-PCRを適応したのち、その結果として生じるDNA配列解析を行うことで相互作用ペアの同定とその頻度解析による混在系での相対親和性の評価を行う。また、分岐構造の異なる不均一鎖の比率を変化させ、シャトル因子との結合量の変化を調べることで、シャトル因子との相互作用におけるポリユビキチン鎖同士の協働性、排他性を評価する。最後に、特に相互作用の強いポリユビキチン鎖とシャトル因子のペアについて蛍光標識を行い、協働、もしくは競合するポリUb鎖の存在下での相分離挙動を顕微鏡観察と光褪色後蛍光回復法 (FRAP) により評価し、相分離を強力に誘起するポ リUb鎖の構造因子を抽出するとともに、ポリUb鎖同士の相分離における関係性を検証する。
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