研究実績の概要 |
本研究の目的は,音の質感として音楽のリズムに注目し,リズムに対する知覚 (脳) と運動誘発 (身体) の成熟過程を明らかにすることである.具体的には,ラットを動物モデルとして,音楽への曝露や,音楽に付随した身体運動経験が,聴覚野のリズム情報処理と,誘発運動をどのように変化させるかを調べる.これにより,聴覚と運動におけるリズム知覚が生得的な能力なのか,それとも,経験を通して後天的に獲得されるのかという,質感研究の主要な問いに答えることを目指す. 本年度は,音楽に曝露した成体ラットで,脳の網羅的なリズム情報処理能力の変化を調べた.音楽様刺激を毎日6時間ずつ4週間,飼育ケージ内の成体ラットに曝露した.音楽様刺激は3種類用意し,リズムが明確な音楽 (モーツァルトのピアノソナタK.448) の原曲,同曲のリズムをシャッフルした刺激,音の周波数をシャッフルした刺激とした.ラットを,音楽曝露の無い群,原曲曝露群,リズムシャッフル群,音周波数シャッフル群の4群に分けた. 曝露後,ラットの聴覚野からウレタン麻酔下で,神経活動を多点計測した.リザバーコンピューティングにおける情報処理容量 (information processing capacity, IPC) を得るために,ランダムなクリック列を提示した.なお,クリック列の提示間隔はパラメータとして,10-300 msの範囲の6つから選択した.その結果,音楽曝露の無い群に比べて,音楽様刺激のいずれかに曝露した群では,300 ms間隔の条件において,1次から6次のIPCの総和が有意に大きかった.一方で,曝露した刺激は,IPCには影響しなかった.この結果は,長期の音楽曝露は,脳の情報処理容量に影響し,特に曝露音の刺激間隔の分布が重要であることを示唆する.
|