研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
23H04348
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
鯉田 孝和 豊橋技術科学大学, 次世代半導体・センサ科学研究所, 准教授 (10455222)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 視覚 / 色覚 / 分光分布 / 光学シミュレーション / 心理物理実験 |
研究実績の概要 |
物体の色度分布を計測すると、概して白から特定の有彩色までの線状の軌跡が得られるが、その軌跡は曲線を描くこともある。曲線になりやすい素材には、透明性があり層構造を持つものが多かった。例えば葉物野菜や花びら等である。この背景となる光学現象は、光が色素を透過するに応じて色が濃くなるランバート・ベール則であり、色素の濃度、色フィルタの膜厚、凹部での相互反射などで顕著になると予想される。また、得られた曲線軌跡には一貫した傾向があり、オレンジ付近の色相をとりあげると、薄い黄色がオレンジ、そして濃い赤へと向かう傾向であった。色度全体では任意の色相の色が濃くなるにつれて最終的に、赤、緑、青のいずれかに集約される軌跡であった。またこれらの曲線は等色相知覚の曲線軌跡として広く知られるアブニー効果とよく一致しており、人間が自然界の色分布を学んで色相知覚を校正している可能性が示される。 次に、シミュレーションから得られた色度の変化をグラデーション画像として生成し、その見た目を評価する心理実験を行った。曲線軌跡との比較対象として直線の軌跡を用いた。直線の軌跡は矩形波の分光分布から得ることができる。曲線と直線の色軌跡ををグレースケール画像14種に適応し、両者を一対比較してよりリアルに感じる方を選択する課題を被験者に課した。その結果、曲線軌跡をリアルに感じる傾向は透明度の高い物体画像に適応した場合顕著であることが分かった。これは並行して行った透明感評定との相関解析によって明らかになったものである。この相関は、物体の素材ごとに色相知覚が組み合されて学習していることを示唆する点で深奥質感の理解の貢献として意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、自然物体の色度サンプリング、理論シミュレーション、色の見えの評価実験を行うことができたことから、おおむね順調であると判断した。特に、透明度の高い物体に本理論の色分布を適応した際にリアルに感じられるという実験結果は、理論の光学的背景とよく一致している点で意義がある。 ただし、色の見えを評価するための曲線および直線軌跡となる色グラデーションの生成には大きな困難があることが分かってきた。まず第一に、シミュレーションによって色分布が顕著な曲線を描くのは、概して色度図上の彩度の高い領域であり、一般的なディスプレイの色域では表示可能な範囲を超えていることが多く、刺激の表示に問題がある。次に、比較対象として直線軌跡となる分光分布を生成するにあたって、曲線軌跡のどの点を参照点として白色からの直線を描くのかに選択の余地がある。また直線軌跡を描くための矩形波分光分布には彩度方向にも自由度がある。矩形波の透過率として強度100%/0%の分布を用いると、濃度変化によるべき乗計算をしても色度はつねに一定となってしまうなどの問題もある。
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今後の研究の推進方策 |
色の心理実験について進捗状況に記載した問題点(色域と色の設定方法の自由度)について、以下の方法を検討している。曲線軌跡がディスプレイの表示色域限界に到達する点を参照点として設定し、白色点からの曲線軌跡を用いるとともに参照点から先の色変化は停止することで、表示色域の問題を解決する。参照点を通る直線軌跡として矩形波の透過率として、100%/0%とはならない中間強度の矩形波をもちいることで、白から参照点までの色分布を作り出すとともに、十分にべき乗すると黒になるグラデーションを作成する方法を用いる。本手法によって物理的に生じうるが曲線と直線となることなるグラデーションを作成することができるだろう。 また、上記の心理実験では心理評定としてリアルさを用いた。これは色相知覚を直接評価することになっていないという問題がある。そこで今後はより直接的に等色相に感じられる色相の探索を行うこととする。曲線軌跡と直線軌跡の両者を基準として色のグラデーションを内挿・外挿することで様々な色変化を作り出す。被験者はこれらのグラデーションの中で最も等彩度に感じられるグラデーションを選択する。この実験によって、等色相知覚として知られるアブニー効果との類似度を直接評価することが可能になり、光学現象と知覚現象の対応関係が明らかになることが期待される。
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