研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
23H04372
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
窪田 慎治 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 モデル動物開発研究部, 室長 (40835419)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 触感覚 / 楔状束核 / 頭頂葉 / 知覚 / マカクサル |
研究実績の概要 |
本研究では、物体がもつ認知的情報が、生体内感覚システムにおける触覚信号の処理に及ぼす影響を明らかにすることを通じて、触覚を介した質感認識を担う神経基盤とその動作原理を解明することを目的とする。具体的には、価値や記憶など対象物に対する認知的情報に応じた延髄楔状束核および大脳皮質の触覚ニューロンの活動を、電気生理学的手法を用いて検証するとともに、延髄楔状束核に認知情報を伝達する大脳皮質領域を同定し、その領域から楔状束核への遠心性入力を化学遺伝学的手法により抑制する事で、認知情報に応じた触覚信号の調整を行う神経基盤と、その行動への影響について検証を行う。 研究1年目である2023年度は、実験個体であるマカクサルに対して、触覚情報に対する注意が必要となる行動課題訓練を実施した。動物では、ヒトと異なり言語的なアウトカムを得ることができないため、統制の取れた課題を確立する必要がある。本研究では、ランダムに設定した神経刺激強度で末梢神経を刺激し、サルに刺激に応じて反応させることで、刺激ー反応曲線(心理行動評価)を評価した。結果、念密な条件検討を行い、刺激強度に応じた反応曲線を得ることに成功した。 また、化学遺伝学的手法による大脳皮質ー楔状束核経路の活動操作に関しては、認知情報処理に関与している頭頂葉領域から、楔状束核へ非常に強い結合があることを、AAVベクターを用いた解剖学的検討により明らかにした。現在、頭頂葉領域の皮質楔状束細胞の活動を化学遺伝学的手法を用いて抑制するための実験に取り掛かっている。今後、確立した課題実施中に、化学遺伝学的手法による活動操作を行うことで、刺激に対する注意の程度に応じた行動の変化(体性感覚刺激に対する応答)を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画1年目である2023年度は、まず、延髄楔状束核へ投射を持つ大脳皮質領域を、神経解剖学的アプローチにより確認した。結果、複雑な物体の認識に関与していると考えられている頭頂葉領域に、延髄に投射する神経細胞が多く分布していることが明らかになった。さらに、投射細胞が多く分布する大脳皮質Area2領域へAAVベクターを注入し、皮質楔状束核細胞の楔状束核投射部位を確認したところ、楔状束核頭側、副楔状束核腹側へ非常に強い投射があることがわかった。これらは、今後化学遺伝学的手法(DREADDs)を用いて、触覚認知に関わる神経回路を操作するための重要な知見である。 また、言語的フィードバックを得ることができない動物に対して、選択的に注意を向ける必要がある行動課題を訓練し、心理行動曲線を評価可能な課題を確立することができた。本課題を用いることで、注意に応じた触覚信号の認識に関わる神経機構を明らかにすることが可能となる。 以上、行動課題の確立、化学遺伝学的手法の確立を進めることができており、順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
計画2年目である本年度(2024年度)は、DREADDsを用いて皮質ー楔状束核回路の活動操作を行い、物体が持つ認知的情報が、楔状束核、大脳皮質の触覚ニューロンの活動変容を引き起こすのか、電気生理学的手法を用いて検証する。 さらに、前年度に確立した行動課題中に、DREADDsを行い、選択的注意に応じた触覚情報の抽出に関わる神経機構を明らかにする。
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