研究実績の概要 |
ガラス転移は、様々な物質系で広く観察される普遍性の高い現象である。しかしその物理起源は明らかではない。特に、ガラス転移に伴う粒子構造の発達の有無は重要な未解決問題である。我々は近年、深層学習によるガラスの特徴構造抽出に関する新手法を開発し、複数のガラス形成モデルに対して汎用的に特徴構造を特定できることを示した。本研究では、多様なガラス系に対してこの手法を適用することで、(1)ガラス転移を支配する構造の有無の解明、(2)系の詳細によらない普遍的構造抽出手法の開拓、(3)得られた構造に人間が理解可能な解釈を与えることを目標とする。 本年度は、主にこの課題(1)に取り組んだ。我々自身の最新の成果も含め、比較的単純なガラス系において、ガラス転移を支配する構造が順次見つかり始めている。また我々の機械学習を用いた、極低温状態に限ったモデル金属ガラス系における準備的研究では、想定をはるかに上回る精度での動力学の予測を実現した[N. Oyama, S. Koyama, and T. Kawasaki, Front. Phys. 10, 1007861 (2023)]。しかし、これらの結果が、より高温の過冷却液体や、より複雑かつ多様なガラス系において普遍的に成立するかは自明ではない。 そこで当該スキームを、多様な温度にあるモデル金属ガラス系の過冷却液体における特徴構造の抽出に適用した。その結果、幅広い温度帯において当該機械学習スキームが有効であり、特徴構造とダイナミクスの相関が増大していく様子を捉えることができた。また本スキームから粗視化自由体積が構造指標であることを突き止め、ガラスの「秩序変数」としての性質を調べている。
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