研究領域 | 「学習物理学」の創成-機械学習と物理学の融合新領域による基礎物理学の変革 |
研究課題/領域番号 |
23H04513
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
末原 大幹 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任准教授 (20508387)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 深層学習 / グラフニューラルネットワーク / ILC / 事象再構成 |
研究実績の概要 |
本研究では、次世代電子陽電子コライダー、特に国際リニアコライダー(ILC)測定器において、物理解析の要となるParticle Flow Algorithm (PFA)の開発を行っている。今年度は、CMS HGCalにおいてカロリメータクラスタリングのために開発されたグラフニューラルネットワークの一種であるGravNetをベースとしたアルゴリズムを元に、飛跡とクラスタのマッチングを行うアルゴリズムを開発し、ネットワークに組み込むことにより、この方法において初めて完全なPFAを実現し、複数のタウ粒子を発生させた事象においてほぼ期待通りの動作を行うことを確認した。また、このアルゴリズムの定量的な性能評価のため、true clusterとreconstructed clusterのマッチングを行い、PFAの精度(reconstruction efficiency, purity)を評価するためのソフトウェアの開発も行った。定量的な評価および既存のアルゴリズムとの比較を現在進めている。 深層学習によるPFAが実現することで、既存の場合分けベースのPFAに比べて、新たな測定器要素の導入や測定器パラメータの変更による影響をよりダイレクトに調べることができる。これを用いて、現在注目されている時間情報を加えた5次元クラスタリングや飛跡検出器における粒子識別のPFAに対する影響を調べることができ、特にILC等の将来コライダーの測定器最適化において強力な手法となり、広い応用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飛跡とクラスタのマッチングにおいては、飛跡を仮想的なカロリメータヒットとして取り扱って通常のヒットと同じ座標空間上に展開するが、ロス関数 (object condensation)において飛跡がクラスタのコア(condensation point)として取り扱われやすくする(収束パラメータβを大きくする)手法をいくつか考案し、実装して性能比較を行った。当初試したいくつかの方法は期待通りの成果が得られなかったが、途中で効率的に飛跡のβを大きくする手法を発見し、当初の期待に近い動作を確認できた。この実装方法の検討にやや時間がかかったが、来年度順調に研究が進めば、当初の目的である深層学習によるPFA性能の改善と実データにおける系統誤差の検証が達成できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最大の目的は深層学習によるPFAの実装完成と既存のアルゴリズムを大きく上回る性能の実現であり、そのためにまずは既存のアルゴリズムと深層学習による方法の定量的な比較を行い、その結果に基づいてネットワークの最適化を行う。また深層学習による手法では学習データの種類、大きさとネットワークの複雑さで性能が大きく変わると考えられ、これらのパラメータをスキャンしてネットワークの応答を定量的に調査する。合わせて、不完全な測定器による影響の考察を進める。まずは不完全なシミュレーションデータを生成しその影響を調べるとともに、追加学習により影響を低減させる手法を開発する。この結果を実データに適用し、その影響を調べることで、この方法の系統誤差の見積もりおよび低減の方法について検討する。
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