公募研究
タンパク質は特定の立体構造を形成した後、ダイナミックに動くことによって機能を発揮する。このようなタンパク質のダイナミクスは、タンパク質の自由エネルギー地形を理論的に描くことによって包括的に理解できる。そこで我々は、タンパク質の自由エネルギー地形を描ける物理学理論(WSME-Lモデル)の構築を行った。この理論は、ジスルフィド結合を持たない球状タンパク質に対しては、大きさによらずに適用可能であり、その予測結果が実験結果とよく整合することが示された。次に、ジスルフィド結合形成を伴う構造形成反応にも適用可能なWSME-L(SS)モデルを開発した。また、ジスルフィド結合が常に存在する状態でのタンパク質の構造変化を記述できるWSME-L(SS intact)モデルも開発した。これらの成果により、大きさやジスルフィド結合の有無に関わらず、あらゆるタンパク質の構造形成反応を予測可能になった。この理論を拡張することにより、機能既知酵素の反応サイクルの予測を試みた。モデル酵素として、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を用いた。その結果、酵素反応サイクルにおける律速段階の反応経路を予測可能な物理学理論の構築に成功した。さらに、この理論に基づいて、酵素の代謝回転数を理論的に予測する方法を開発し、予測値が実験値とほぼ一致することが示された。以上の成果は今後、機能未知酵素の機能予測や、酵素の高活性化変異体の効率的設計法の開発において有用と期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
あらゆるタンパク質の自由エネルギー地形を予測可能な理論を開発できたことは画期的な成果である。この成果をまとめた論文は、2023年にNature Communications誌に掲載された生命科学分野の論文の中で最もダウンロード数の多い論文のトップ25にランクインした。さらに、この理論を発展させて、酵素の代謝回転数を予測することに成功した。
本研究は順調に進展しているため、今後も計画通りに進めていく。「機能未知酵素の基質特異性や反応機構を同定する予知システムの開発」については、まず、機能既知酵素の反応サイクルを、我々が開発した理論で予測可能なことを確認する。次に、機能未知酵素と基質候補との複合体構造を深層学習モデル等を用いて予測した後、我々の理論を用いて酵素反応サイクルを予測し、それが実現可能な反応かどうかを検討する。次に、「酵素の活性向上を効率的に実現する理論的手法の開発」については、様々な酵素変異体の代謝回転数を、我々が開発した理論を用いて予測する。予測結果を文献値と比較することにより、理論予測の妥当性を検証する。以上により、本研究の目標を達成できると期待される。
すべて 2024 2023 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 1件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
J Mol Biol.
巻: 436 ページ: 168451
10.1016/j.jmb.2024.168451
Current Opinion in Structural Biology
巻: 84 ページ: 102734
10.1016/j.sbi.2023.102734
Food Chemistry: X
巻: 21 ページ: 101165
10.1016/j.fochx.2024.101165
Nature Communications
巻: 14 ページ: 6338
10.1038/s41467-023-41664-1
FEBS J.
巻: 290 ページ: 4999-5015
10.1111/febs.16911
Scientific Reports
巻: 13 ページ: 6330
10.1038/s41598-023-32848-2
https://folding.c.u-tokyo.ac.jp/