研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04549
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
工藤 史貴 東京工業大学, 理学院, 准教授 (00361783)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 生合成 / 天然物 / ゲノムマイニング / ラジカル反応 / ラジカルSAM酵素 |
研究実績の概要 |
本研究は機能未知のラジカルS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)酵素の機能解明を目的としている。 2023年度はまず、SAMの4''-位のC-メチル化を触媒すると推定したラジカルSAM酵素の発現・精製を検討した。当研究室で蓄積してきた発現手法やホモログ酵素の発現・精製を種々検討したが、現時点では酵素反応解析に使える酵素の調製に成功していない。そこで本酵素の機能を間接的に証明するために、有機合成と酵素合成を組み合わせて生成物標品を調製し、それを基質とすると推定された酵素の機能解析を行った。結果として、4''-位をC-メチル化したSAMを基質として生成物に変換する酵素活性を見出すことができた。メチル化してないSAMや4''-位の立体化学が反対のものは基質としてほとんど変換されなかったことから、この酵素は4''-位メチル化SAMを厳密に認識していることが明らかとなった。また、このことから研究対象としているラジカルSAM酵素は、SAMの4''-位を立体選択的にC-メチル化することが示唆された。 また2023年度は、多くの細菌が有するバクテリオホパンポリオール(BHP)の生合成において、グリコシドの縮環反応を触媒するラジカルSAM酵素の触媒活性を見出すことに成功した。本研究では、BHPを生産するZymomonas mobilisの幾つかの生合成遺伝子を破壊することで生合成中間体を蓄積させて、ラジカルSAM縮環酵素の推定基質を調製した。ラジカルSAM縮環酵素については触媒活性を見出しただけなので、次年度に精密解析を進める予定である。また本研究により、幾つかのBHP生合成中間体の調製方法を確立したので、BHPの構造多様化に関わるラジカルSAM酵素の機能解析に展開できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラジカルSAM酵素の機能解析は難易度が高く、期待したような酵素活性を見出すことができないことも多いが、2023年度に計画していた幾つかのラジカルSAM酵素の機能解析のうち、BHP生合成に関わるグリコシドの縮環酵素の触媒活性を見出すことができたことは評価できる。次年度の精密解析に向けて視界が開けた。一方で、比較的容易に機能解析をできると期待していたラジカルSAM C-メチル化酵素については、発現・精製に苦戦しており、酵素調製方法に課題があることが分かってきた。 また、ラジカルSAM酵素の基質調製のための酵素や反応生成物を基質とする酵素の機能を解明できたことも評価できる。今後の本研究領域における新たな研究課題の発掘につながっている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、BHP生合成における縮環酵素の精密機能解析を進める。推定されるラジカル中間体のクエンチに関わると考えられるアミノ酸残基の特定などを進める。そのためにも純粋な基質を調製する。この機能解析については2024年度中に論文化したい。 また幾つかのBHP生合成中間体の調製方法を確立したので、BHPの構造多様化に関わるラジカルSAM 酵素の機能解析を進める。まずは推定酵素の発現・精製検討から始める。 SAMの4''-位を立体選択的にC-メチル化するラジカルSAM酵素については、引き続き発現・精製条件を検討する。このような調製困難な酵素の発現・精製方法を確立することができれば、ラジカルSAM酵素の機能解析において有用な知見を引き出せると考えられる。
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