研究領域 | 生体反応の集積・予知・創出を基盤としたシステム生物合成科学 |
研究課題/領域番号 |
23H04551
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
崔 宰熏 静岡大学, グローバル共創科学部, 准教授 (40731633)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フェアリー化合物 / 生合成 / 代謝 |
研究実績の概要 |
フェアリーリングの原因物質である2-azahypoxanthine(AHX)、imidazole-4-carboxamide(ICA)、2-aza-8-oxohypoxanthine(AOH)は、「フェアリー化合物(FCs)」と称され、植物の成長促進やストレス耐性向上に寄与することから農業への応用が期待されている。この研究では、FCsの生合成や代謝経路を解明するための3つの研究を行った。 1)HGPRT によるフェアリー化合物の代謝に関する化学的研究;プリン代謝経路には、ホスホリボースの付加及び脱離反応を担うホスホリボシルトランスフェラーゼが存在する。フェアリー化合物の代謝に関与するHGPRTの機能解析から、AHXとAOHはヒポキサンチンと構造的に類似しており、それぞれ異なる新規リボヌクレオチドを発見した。 2)フェアリー化合物由来SAMとSAHアナログとメチル化機構;ICA代謝産物に特異的なメチルトランスフェラーゼであるHMTの活性を検証し、FCs由来のSAM・SAHアナログを基質として認識した。 3)サナギタケ由来の新規フェアリー化合物代謝産物の探索;サナギタケを用いて新規フェアリー化合物代謝産物、特にコルジセピンの特徴的な構造である3’-デオキシリボースを持つ骨格を探索した結果、AHXからAOHへの変化及び新たな代謝産物の発見に成功した。これらの成果は、フェアリー化合物の農業への応用を進める上で重要な基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究が順調に進んだ理由は、明確に定められた研究目標と詳細な実験計画、さらに先端的な分析技術の活用によるものだである。具体的には、フェアリー化合物の生合成と代謝経路を解明するという明確な目的のもと、それぞれの化合物の生理活性および代謝機構を系統的に調査した。まず、HGPRTを用いた代謝研究では、構造の類似性を基に予測し、実験を通じて新規リボヌクレオチドの発見に成功した。次に、HMTによる特異的なメチルトランスフェラーゼ活性の調査では、フェアリー化合物由来SAMとSAHアナログが活性を示した。最後に、サナギタケを使用した実験では、特定の代謝産物を効果的に追跡し、新規化合物を発見した。これらの研究は、専門的な技術力と十分な資源の組み合わせにより、計画通りに進行した結果である。
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今後の研究の推進方策 |
FCsの生合成や代謝経路を解明するための3つの研究を行う。 1)イネにおけるAICAからFCsの生合成・代謝研究;イネ培養細胞由来の粗抽出液を用いてAICAからFCsへの変換活性を検討したところ、FCsは生成されないにも関わらず、AICAが完全に消失した。現在、AICA代謝酵素の精製を進めると共に、FCsではないAICA代謝産物の同定を試みる。さらにそれに関わる酵素遺伝子を同定する。また、AHXの酸化によってAOHが生合成される。この酸化反応はxanthine dehydrogenase(XDH)が担う可能性があり、イネ稲培養細胞由来の粗抽出液を用いて活性試験を行う。 2)チャノキにおけるフェアリー化合物の代謝に関する化学的研究;メチル化FCsの化学合成を行い、AHX処理したチャ細胞においてAHXが予想通りにメチル化されることを明らかにした。そこでFCsで処理されていない生チャ葉におけるメチルFCsの内生の有無を検討すること、および新たなFCsの代謝産物の単離と関連遺伝子の同定を目的とする。 3)HGPRT によるフェアリー化合物の代謝とサナギタケ由来の新規フェアリー化合物代謝産物の探索についても続いて研究を行う。
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